第22話

☆☆☆


一週間後。



休憩時間に入った時、私は久しぶりに3年生の廊下を歩いていた。



いくらA組のクラスメートたちと仲良く会話をしていても、どうしても佳太くんのことが頭から離れず、とうとう足を運んでしまったのだ。



坂下さんに聞けば佳太くんのことをしっていそうだけれど、そんな質問をすればどんなしっぺ返しが待っているかわからないので、1人でこっそりやってきた。



もちろん、他の子達にも知られるわけにはいかない。



本当にひと目佳太くんを見るだけでいいんだ。



それで自分の気持にケリをつけるつもりだった。



それなのに、佳太くんらしき人はどこを探しても見当たらない。



おかしいな、きっと3年生のはずなのに。



周囲を見回しながら歩いていると廊下の奥に人垣ができていた。



女子生徒や男子生徒に囲まれているひときわ背の高い先生の姿がある。



人垣の横を通り過ぎる瞬間、佳太くんの声がきこえてきた気がして私は立ち止まった。



周囲を見回して確認するが佳太くんの姿は見当たらない。



勘違いだったんだろうか?



首をかしげて、私はまたあるき出したのだった。


☆☆☆


「どうしたの? フラれたの?」



そんな質問を直球で投げかけてくるのはお母さんしかいなかった。



最近は花壇の世話もしなくなって帰りが早いし、明らかに落ち込んでしまっている私を見ての反応だ。



「フラれてなんてないよ」



私はもごもごと口の中だけで返事をする。



告白もできていないのだからフラれることはない。



あ、だけど佳太くんには彼女がいるかもしれないんだ。



そう思い当たって、また落ち込んでしまう。



私は本当に佳太くんのことを何も知らなかったみたいだ。



名前や学年だって聞いたことがない。



花壇にいた頃にはいつでも会えると思っていたし、そういう質問をすることが無骨なことだと感じられていた。



だけど今になっては後悔するばかりだ。



「どんなことがあっても、お母さんは知奈の味方ですからね!」



お母さんは元気よくそう言って、私の背中を痛いくらいに叩いたのだった。

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