第41話「症状と原因」

 早坂氏の健康教室。


「ひんにょうというのは症状です」


「症状? 病名じゃないんですか?」

 マナミが早坂氏にたずねる。

「例えば、せきが出る。これは症状です。原因は、風邪かもしれないし、肺の病気か心臓の調子が悪くても咳はでます」


「それでは、頻尿ひんにょうというのは、なぜなるんですか?」

「それは、原因をしらべるのは難しいんです。膀胱炎とか原因がハッキリしていれば薬もあるんですが、老化によるものとかになると難しい。私は足の老化が関係していると思いますよ」


 マナミは頻尿に興味があるようだ。早坂氏の健康教室に通うようになって、マナミの下半身の悩みが薄れてきたからだ。

 生理痛も軽くなってきて、ひょっとしたら、もっと良くなるのではないかと思うようになっていた。


「例えばですね、高齢になってくると、靴下のゴムで締め付ける所に傷あとが有る人が多いんです。これは、足の血液の循環が悪くなってきて傷が治りにくくなるからだと思うんです」

「靴下の所ですか、お父さん、見せて!」

 マナミは武田の靴下のゴムの部分をめくった。


「本当だ、小さな傷がいっぱいある」


「血液の循環が良いと傷もすぐに治るんですが、循環が悪くなると傷の治りが遅くなって跡が残るようになります。昔から、老化は足からと言われるように、足の循環は最初に悪くなります。足の循環が悪くなると、膝が痛くなり、骨盤内の臓器も不調になり、頻尿もその一つの症状だと思うのです」


「は〜〜っ、なるほどね〜っ。足の不調が頻尿の原因とは盲点ですね」

 武田が感心している。


「頻尿の原因は、もっといっぱいあると思いますよ。前立腺がんとか、膀胱がんとか……」

「がんは勘弁してくださいよ」

 武田は、がんを恐れているようだ。


「それでは、症状と原因は別で、治し方は症状のある部分に、どうすれば血流が良くなるかということですか?」

「そう、マナミさん、飲み込みがいいですね。血流が悪くなっている原因がなんなのかを考えるんです。老化やコリ、または冷えによるものか、炎症を起こしているのではないかとか?」


「それは、熟練した人でないと原因は見つけられないのではないでしょうか?」


「理屈がわかれば、少しの講習を受ければわかってくると思いますよ。まっ、その講習をしてる所を私は知りませんけどね……」

「早坂さん、やって下さいよ!」

 マナミが早坂氏に頼む。


「そうですね……私も教えるほど内容を整理していないんですよ。雑談で話すくらいなら話しますが……」

「それでいいです。雑談でいきましょう!」

 マナミは、早坂氏の話しに興味があるようだ。武田とは大違いだ。武田は早坂氏の話しを聞いても右から左で、あまり覚えていなかった。


「例えばですよ。熱が出たとします。これはばい菌による感染なのか、それとも自己免疫によるものかなんてのもあるんです。熱が症状ですね。原因は何か? 病院では原因の特定にいろんな検査をします。治療法をまちがえると大変なことにもなりますから」


「ちょっと難しいですね。もう少し簡単な方法はありませんか?」

 マナミの医療の知識は一般的なもので、複雑なものはわからなかった。


「そうですね、頻尿に効きそうなのは、足をもんで膀胱の血流を良くするんですね。足首を伸ばしたり、ふくらはぎを揉んだり、膝の裏を伸ばしたりですね。あとは骨盤内の動きを良くする体操ですね」

「それはいつもやっているやつですか?」

「そうです。です」

「あれですか……」


「それとですね、水をいっぱい飲めば、当然、オシッコもいっぱい出ますよ」


「それは、僕ですね」

 武田が自分が糖尿病予備群だと自覚していた。


「甘い物の取り過ぎは全国的な問題かもしれませんね」

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