第42話「カエルの行」
武田の休日。
武田は家族で近所の公園にきていた。
わりと大きな公園で、遊園地はないが、夏になれば、お祭りの屋台がずらりと並び、お化け屋敷やバイクの曲芸もやってくる。
「おじいちゃん、ボート、ボート」
「タケル、ボートに乗りたいのか?」
「うん、乗ったことない」
公園の中に池があり、貸しボートで遊べるのだ。
武田達もボートに乗って池の上を漕ぎ出した。昔からある普通の木製のボートだ。
「ゆれる、ゆれる!」
初めてのボートにはしゃぐタケル。
武田がボートを漕いでいる。
池のふちにカエルが泳いでいた。
武田は、そのカエルに目が釘付けになった。
「お父さん、どうしたの? 何かあるの?」
ボートを漕ぐのを止め、池のふちをじっと見ている父親を不審に思い、娘がたずねる。
「あ〜っ、カエルがいるんだ……」
「カエル?」
「カエル? 僕も見る!」
タケルが武田のそばに行き、一緒に池のふちを見ている。
「カエルさんがおよいでる!」
じっとカエルを見ている武田とタケル。
「お父さん、カエルが好きなの?」
「いや、別に好きってわけじゃないよ。むしろ触りたくない」
「なにそれ……」
「このカエル、背泳ぎで泳いでいるんだ」
「カエルって背泳ぎなの?」
「普通は顔を下にして泳ぐんじゃないかな?」
「それが珍しくて見ているの?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。このカエルの動きに何かを感じるんだ……」
「何かを……」
武田はカエルが泳ぐ姿を飽きもせず見ていた。
❃
「あそこで、タケルの大好きなアニメ『仙術大戦』の原画展をやってるのよ!」
「原画展か……行ってみるか?」
公園には美術館があり、特別展示で大人気アニメの原画が展示されていた。
タケルと娘にせがまれ武田も行くことにした。
タケルは、大喜びで原画を見ている。
武田も作品を見ていた。
「お父さんも、こういう作品が好きなの?」
武田は短パンをはいたヒーロー、ガマ仙人と、ボロボロの着物を着た老人、鉄拐仙人の原画の前で立ち止まっていた。
「この足が気になるんだよ。何でかな?」
武田の頭の中で何かが引っかかっていた。
そこに答えがあると直感的にはわかっているが、はっきりとした答えを言葉にすることができなかった。
「おじいちゃん、こっちがガマ仙でガマキックは岩を砕くんだよ! こっちは鉄拐仙人で超能力を使うんだ!」
タケルがはしゃぎながら武田にアニメのヒーローの説明をする。
「ガマキックか、凄い足の筋肉だな」
筋肉か……
『武田さん、筋肉は血液を回すポンプなんですよ』
早坂さん、筋肉はポンプだと言っていたな、あの時は何を言っているのかわからなかったが、今なら、少しは理解できるな。
老化は足からって言うもんな、実際、俺も足が弱ってきた。
足の筋肉の衰えが頻尿の原因だろうか?
金がなければ何も買えない。
食べ物を買えなければ、体は衰えていく。
細胞にとって必要なのは酸素と栄養。
それを運ぶのは血液。
血液を回すのが筋肉か……
❃
自宅に戻り、くつろぐ武田。
「おじいちゃん、カエルさんみたい!」
仰向けになり本を読んでいる武田。
足をカエルのように伸ばしたり、縮めたりしている。
タケルも真似をして足を伸ばしたり縮めたりしている。
「お父さん、なにそれ。カエルの行?」
マナミがたずねる。
「ああ、これか。俺も考えたんだよ、どうすれば頻尿が良くなるかを」
「それが、その体操?」
「そう。簡単にできて効果のあるものは無いかと考えていたんだ。早坂さんは、スクワットをすると良いって言うけれど、スクワットって辛いだろ?」
「スクワットね……たしかに、あまりやりたくはないね……」
「そうだろ!? 毎日、スクワットをしなければならないと思うと気が重くなるんだ。それで、昼間にカエルを見て思いついたんだ。仰向けで足を伸ばしたり縮めるのなら簡単じゃないかと」
「そう。それで効きそうなの?」
「やらないよりは良いと思うぞ。こうやって、両足首を伸ばして前に曲げるだろ、それからかかとを付けて膝を曲げて足を縮めて伸ばすんだ」
「本当に、カエルみたいね」
「ははははははははっ、カエルか……、昔、
❃
マナミが茶の間で仰向けにで本を読みながら足をばたつかせている。
「なんだそれ、カエルの行か?」
武田がたずねる。
「お父さんのカエルの行はけっこう大変だよ。両足じゃなくて、片足だけを曲げると楽にできるのよね」
「片足か……別に片足でもいいよ。導引は型があって無いものだからな……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます