第33話「朝にう○こを出す方法」

「3時間もトイレを我慢するのはしんどいな、夜中でも2時間おきにオシッコに起きるのに……大きい方がしたくなったらどうしよう?」

 武田は仕事中のトイレに悩んでいた。


 ❃


 早坂さんの健康法教室。

 武田は仕事中にトイレに行かなくてもいいように、何か方法は無いか早坂さんにたずねた。

「そうですか、自由にトイレに行けない仕事ですか。バスや電車の運転手さんなんかもトイレに行けないと言うので教えた事があるんですが、今日は、朝にう○こを出す方法をやりましょうか?」


 毎週無料でやってる早坂さんの健康法教室だが、あまり流行っていない。

 今日も客は武田と娘のマナミと孫のタケルの3人だけだった。


「若い頃は毎朝出てたんですけど、最近は不規則になってますね。マナミはどうだ?」

 武田はマナミにう○このことを聞くと、マナミは両手を鷲の爪のように開いて武田に向け怒った表情をした。

 女性にう○この事を聞くなと言う仕草だろう。


「では、やってみますね。やり方は簡単なんです。こうやって仰向けに寝て膝を立てます。そしてお腹のへそから下を押しもみします。特に左の下に便が溜まっていますから、そこをもみます。だいたい20分くらいもむと出ますよ。女性は生理中や妊娠中はもんだらいけません。お腹に病気のある人ももんだらダメです。指で強く押すと指のあとがお腹にうっすら残るので、女性はやさしくなでるくらいの方がいいでしょう」

 早坂さんはマットの上に仰向けになりお腹をもんでいる。


「朝20分やれば出るんですか?」


「必ず出るというものではありませんよ、やはりその日の調子がありますから。でも、便は寝ている間に腸を動いて朝に出口のそばに準備されるんです。寝ている間に腸は働いてくれるんですね」


 早坂さんのやり方を見て武田もマットに仰向けになってやってみる。


「最初は、お腹全体をもんで、それから左の下を集中してもみます」

 早坂さんが実際に武田のお腹をもんで力加減なども教えている。


「この左下のふくらみが分かりますか? これが便です。ここをもんでやるんです」

 早坂さんに言われて左の下をもんでみるが、武田には自分のお腹に便があるのがわからない。


「毎日やってれば、わかりますよ。今日はいっぱい出そうだとか、あまり溜まっていないなんてね。ただ、仰向けでもんでいる時は便意が無いんですよ。もんで立ち上がってしばらくすると便意がきます。それも、我慢できないほど急に来ることがあるので、慣れないうちは恥ずかしいことになることもありますよ」


「なんか、恐ろしい技ですね。この歳でもらしたらタケルに笑われますよ」


「慣れたら便利なもので毎朝、同じ時間に出すこともできるんですが、最初のうちは失敗する人も多いです……」

「失敗と言うのは、やはり漏れるんですか?」

「そうです。横になってもんでいても、全然便意を感じないので出ないのかと思っていると、急に出口に来て間に合わないと言う人が何人かいました。便が出る前兆としてオナラが出ますから」

 早坂さん、少し笑いながらしゃべっている。


「トイレに人が入っていたらアウトですか……もう少しゆるやかな技はないんですか?」


「トイレの中でお腹をもむ方法もありますよ」

「それ、いいんじゃないですか?」

 武田は、そのやり方を知りたそうだ。


「やり方は同じなんです。仰向けか便座に座っているかの違いで、同じように左下をもみます。でも、できれば仰向けで丁寧にもむ習慣にしたほうがいいと思いますよ」


「そうなんですか?」


「実は、これ、不老長寿の秘法と言われる技で、江戸時代に和方医が病気治しの切り札に使っていたと言われる技なんです。免疫の7割は腸にあると現代はわかってますが、江戸時代にも体験的にお腹と病気を治すのは関係があると気づいていたようですね」


「そんな凄い技なんですか!? 何気ない技に見えましたよ……」

 武田は技の深い意味を知り感心している。


「ちょっとした習慣が積もり積もって大きな差になるかもしれませんね」


 早坂さんにお礼を言って帰ろうとしたら……

 ぷう〜〜〜っ。

「あっ、なんで?」

「やだ、お父さん、恥ずかしい……」

 お礼を言って、頭を下げた瞬間に武田がオナラをした。


「はっはっはっ、けっこうあるんですよ。お腹をもむと自分でも気づかずオナラがでることが」

 早坂さんが笑いながら言う。


「あっ、なんか、トイレに行きたくなってきた。本当に突然、強烈にきますね。すいますん、トイレを貸してください」

「どうぞ、どうぞ……」

 武田は早坂さんにトイレを借りた。


 ❃


 今日も早坂さんの健康法教室を終えて、恒例となった外食をしてから帰ることになった。

「タケル、何が食べたい?」

 武田がたずねる。

「ラーメン! もやしの入った味噌ラーメンがいい」


「もやしの入った味噌ラーメンか? どこかにあるかな?」

「この商店街にラーメン屋さんあったよ。そこは?」

 マナミが早坂さんの整体の店の並びにあるラーメン屋さんを思い出した。


「ここにあるの? 行ってみるか」


 早坂さんの店から6店舗ほど離れてラーメン屋さんがあった。

 入口にメニューとポスターがある。


「これ、山盛りのもやしの味噌ラーメンじゃないか?! 『ジャンボラーメン』チャレンジャー募集? 三人前のラーメンを食べ切れたら、ラーメン代は無料で賞金千円進呈」

 武田は、店の前のポスターを見ている。


「お父さん、チャレンジする気?」

「マナミ、俺は、今、腹が減っている。三人前なら食えると思うんだ……」

「失敗したらラーメン代、三千円だよ」


「ラーメンに三千円は高いけど、食えると思う」

 武田は三人前のジャンボラーメンにチャレンジすることにした。


 出て来たジャンボラーメンは、確かに麺は 三人前だが、モヤシが山ほど入っている。

「これ、モヤシが多いよ! モヤシ無しじゃダメですか?」

「すいません。モヤシ込みなもんで……」

 武田は、モヤシが多すぎるとごねたが、店の人はモヤシも込みだとゆずらない。


「これは、とても食えない。ギブアップします」

 武田は目の前に出された巨大なラーメンに箸を付けづにギブアップした。

 店の人にとり皿を三つもらい、マナミとタケルの三人で取り分けて食べることにした。


「お父さん、最初からチャレンジのラーメンを三人で食べるのを考えてたの?」

 マナミがたずねる。

「三人前のラーメンなら、本当に食べるつもりだったんだけど、それなら食べれる人は多いから、何かあるなとは思っていた。出されたラーメンが食べれそうになければ、三人で分けて食べればいいと思っていたんだ。ラーメン一杯に三千円は高いけど、三人で三千円なら普通だろ?」


「なるほどね。三千円は高いか……早坂さんの整体も三千円だよね」


「えっ、整体? ああ、三千円だね」


「やっぱり、三千円は高いからお客さんが来ないんじゃないかな?」

「どうかな? 整体はだいたい、そのくらいじゃないか?」


「そうだね……」


 ジャンボラーメンも三人なら食べ切れた。

 山ほどあるもやしも厚切りのチャーシューも食べて、タケルも満腹のようだ。

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