第32話「酒の工場」
武田は酒を作る工場に就職した。
仕事、初日。
「緊張するな〜 話しでは、3人一緒に入社だと言っていたから少し気が楽だな」
緊張して工場に向かう武田。
門を入ると守衛の人がいて、入社で来ましたと言うと会議室に通された。
❃
「この工場では、出来た酒をビンに詰める作業をしています。酒を作る工場は別にあり、そこから、この工場に出来た酒が運ばれてきます。酒をビンに詰める機械は正社員の人がやるので、武田くんには出来上がった酒のビンをダンボールの箱に入れる機械と、そのダンボールをパレットに積む機械のオペレーターをやってもらいたいんだが、どうだね?」
工場長が武田に話す。
「はい、やらせていただきます」
会議室の大きな柔らかい椅子に座り、かしこまる武田。
40歳代の女性、
もう一人くるはずだったのに、初日から来なかった。
❃
工場の現場に行く武田。
「この
現場の作業長が武田に三島を紹介している。
三島は30代の男性。身長165cm位で体重は50kg位と痩せている。
大学を卒業しているが、職業を何度か変わり、この工場はアルバイトとして働いていた。
「よろしくお願いしまし」
頭を下げてお願いする武田。
三島は、何も言わず頭を少しだけ動かした。
❃
翌日の朝礼。
工場で働く人が集まっている。
(みんなの前で挨拶か、緊張するな……)
挨拶を考える武田。
しかし、朝礼で新しく入った武田と野上のことは、まったく触れられることは無かった。
(忘れていたのかな? 普通、新しく入って来たら、みんなの前で紹介して挨拶じゃないのか?)
武田は三島に新しく人が入って来たら挨拶するのでは? と聞いてみた。
「昔は、やっていたんですけど、すぐに辞める人が多いのでやらなくなったらしいです。今回も一人は入社を辞退したそうです。ネットの評判悪いから、この工場……」
三島の話しに大丈夫だろうかと、不安を感じた武田。
機械の操作について三島は「機械の取り扱い説明書があるので、これを読んで下さい」と、分厚い本を2冊、武田に渡した。
(こんな本を渡されても……直に教えてくれたほうが分かるのではないか?)
武田は分厚い機械の取り扱い説明書を渡されてへきえきした。
工場長からは、1ヶ月を目安に機械の操作を覚えてほしいと言われていた。
しかし、三島は武田にあまり機械の操作を教えなかった。
教えたくなかったのだ。
自分がやっと覚えた機械操作を教えて、武田が上手にできるようになるのは面白くなかった。武田が機械操作を覚えてしまえば自分は何をやればいいんだ? と思い、できれば武田が機械操作ができなくて会社を辞めればいいと思っていた。
一応、教えなければいけないので機械の操作は教えるが、小声でボソボソとしゃべり、しかも早口でしゃべるので、武田は三島が何を言ってるのかわからなかった。
「あの〜っ、三島さん、ここの操作は、どうやればいいのでしょう?」
武田が三島に機械操作をたずねると、三島は「あっ、それね、それは……肩の力を抜いてやればいいんですよ」と、わけのわからないことを答えるしまつで、武田は、なかなか機械の操作を覚えられなかった。
武田は、自衛隊では、難しい機械を扱っていたので、ちゃんと教えれば出来るのだが、三島の教え方では覚えるのは難しかった。
酒は日本酒と焼酎があり。
ビンの種類も青い色、赤い色、透明な物。
大きなビン、小さなビン、さらに銘柄もいっぱいあった。
武田の取り扱う機械はビンの大きさが変わると、そのつど治具を交換しなければならず、三島がやってるのを見て覚えなければならなかった。
日本酒は約2時間を目安に酒をビンに詰めていた。ビン詰めの始まる前にトイレに行けば2時間がまんすればビン詰めが終わりトイレに行けた。
しかし、焼酎は昼の休憩に機械を止めるだけで、朝の9時前にはビン詰めが始まり12時まで機械は止まらない。
昼は1時からビン詰めが始まり4時すぎまで機械は止まらない。
武田は3時間もトイレを我慢するのは出来ないと思い三島に聞いた。
「三島さん、仕事中にトイレに行きたくなったら、どうすればいいのでしょう?」
「機械は、最初の設定をすれば、あとは自動でやってくれるのでトイレにいっても大丈夫だと思いますよ」
三島の言葉にホットする武田。
実際、見習い中は仕事の合間にトイレに行けた。
それでも、なるべくトイレに行かないように、朝食も食べず、朝から水も飲まなかった。
半月ほど経つと、さすがに武田にも三島が教える気がないことが分かった。
(こいつ、ぜんぜん教える気がないな!?性格が悪いのか?)
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