第31話「ミトコンドリア」

 武田と娘のマナミ、孫のタケルが早坂さんの健康法教室で足湯をしている。

 タケルが体が温まったてタライから足を出したので、交代で武田が椅子に座ってタライの中に足を入れた。

 電気ポットでタライにお湯を足して、ぬるくなったお湯の温度を上げた。


 早坂さんの話すミトコンドリアの話しにマナミは興味を持ち、足湯をしながらいろいろと聞いている。


「ミトコンドリアはどこにいるんですか?」

 マナミが早坂さんにたずねる。

「細胞の中にいます。しかも、ひとつの細胞の中に数千から数万という数らしいです。電子顕微鏡を見て数えたんでしょうかね? ミトコンドリアは動いているので大変だったでしょうね」


「そんなにいるんですか!? 学校の教科書にな2~3匹くらいしかいなかったように思いますけど……」

「分かりやすく書いたのでしょう。しかも、輪切りにした図のようですよ。人間で言うとお腹のCT写真みたいなものでしょうね」


「実際の姿はミミズなんですか?」


「……テレビで、たまにミトコンドリアの映像を見るんですが、糸ミミズが近い形だと思います。もっとも、もっと顕微鏡が進化すると本当はとんでもない姿かもしれませんけどね」

「それが数千匹ですか?」


「1つの細胞に数千匹で場所によって違うんです。重要な場所は、1つの細胞に数万匹らしいんです。イメージなんですが、日本列島自体を一人の人間に例えると、人の住む町や村を1つの細胞と考えると数のばらつきがわかると思います」

「なるほど、数千人の町はありますね。それで、そのミトコンドリアは何をしているんですか?」


「エネルギーを作ったり、細胞の入れ替えもしているようです」

「エネルギーって、何に使うんですか?」

「人間は、糖分とミトコンドリアの作るエネルギーで動いているようなんです」


「そうなんですか?」


「ミトコンドリアと免疫をセットで考えるといいと思います。ミトコンドリアも免疫も体が温かいとよく働くんです。それと睡眠をちゃんととることですね」

「足湯をして、すぐに寝るといいんですね」


「昔の病気治しの名人は昼は導引を教えて、夜は酒風呂か大根風呂や薬草のお風呂に入れて、ぐっすり寝かしたらしいですね」

「酒風呂って昔からあるんですね」


「一般的には無いと思いますよ。昔はお風呂は銭湯で週に1~2回が普通でしたからね。それこそ、自宅にお風呂が有る人でも、お風呂に酒を入れたりしたら怒られたんじゃないでしょうか」


「あたしの友達に自己免疫疾患の子がいるんですが、酒風呂はいいのでしょうか?」

「私は、そう言う難しいのはやってないんですが、いろいろ本を読むと自己免疫疾患の原因はお腹を冷やしたか、口の中を冷やして、口の中に菌が繁殖したんじゃないかと思うんです。冷蔵庫の普及で冷たい飲み物やアイスクリームを日常的に食べると口やお腹を冷やしますよ」


「お腹と口ですか」

「そうです。お腹と喉にパイエル板という、免疫を教育する所があるんですが、冷えると、この教育が上手くいかずに、攻撃する対象を間違えてしまう免疫が生まれるんじゃないかと思います」


「免疫って教育を受けているんですか!?」

「私は見てませんよ。免疫学者は、そう言っています。私もなるほどと思って免疫学者の書いた本を読んでました。実際に難病治しの名人が言っていたことと不思議と一致するんです」


「早坂さんは、その難病治しの名人には会ったことがあるんですか?」

「はい、名人は当時高齢で、もう直接の指導はしていなかったんですが、みんなを集めて話しをよくしていました。それによると、難病治しの決めてが、大根風呂で体を温めて冷やさないようにして、よく寝ることです。昔は大根の葉は八百屋にもあって手に入りやすかったですし、お風呂も水から沸かすので、干した大根の葉を木綿の袋に入れてお風呂の水に入れて一緒に沸かせばよかったから簡単だったんです。今は大根の葉も漢方薬屋に行かないとないし、鍋で煮出さないとならないので手間がかかるんです」


「その名人は、どんな病気を治していたんですか?」

「脳卒中や自己免疫疾患なんかもやっていたようですよ。本当に治ったかどうかはわかりませんけど……」


「今もやっているんですか?」

「いえ、いえ、もう亡くなってます。お弟子さんや家族の人はいましたが、名人は家族にも技はあまり教えなかったという話しです」


「それはもったいないですね。今なら画像で残せたのに……」


「名人も、こうすれば病気が良くなるのはわかるけど、なんで良くなるのかはわからないと言ってました。当時は、まだミトコンドリアや免疫についてわかっていなかったと思います。有名ながん細胞を殺す免疫のキラーT細胞なんかもアポロが月面着陸に成功したころに発見されたようですからね」

「そうなんですか、最近の研究でわかったんですか?」


「たぶん、まだ完全じゃないと思います。だいぶ分かってきたという段階じゃないですかね」

「そうですか、今日は、いろいろ教えていただきありがとうございました」

 マナミが早坂さんに丁寧にお礼を言う。


「マナミ、俺も足湯で体がポカポカだ! 帰ったらキンキンに冷えたビールを一気に飲むぞ!」

 武田も足湯が終わり。額から汗が出ている。


「早坂さん、こういうのがいけないんですね」

「そうですね、冷たい物は口とお腹を冷やしますね……」

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