第21話「CS検定 ワープロ 3 級」

 コンピュータサービス技能評価試験

 ワープロ部門 3 級。


 課題 1∶文字入力。

 課題 2∶文章の作成。

 課題 3∶文章の編集・校正。


 試験時間 50分。


 武田は 3級合格を目指して必死にタイピングの練習をしていた。

 課題 2と課題 3は、すでに合格ラインになっていたが、課題 1の文字入力ができなかった。

 文字入力は約350字の単純文字入力で保存も含めて10分以内にできればいいのだが、パソコン初心者でローマ字入力もおぼつかない武田には10分間で150文字くらいしか打てなかった。


「タイピングソフトで練習すれば、なんとかなるだろう!」


 武田は頑張っていた。

 コーヒーを飲みながらスナック菓子を食べながら、ひたすらタイピングの練習をしていた。

「づ? ZU? ちが〜う! DU!」

 まだまだローマ字にてこずっていた。


 ❃


「いて!」


 寝ていた武田が叫んだ。

 「肩が痛い!」

 肩の痛みで目を覚ました。


 なんだ、これは? 右の肩関節に痛みが走ったぞ。

 肩関節に時々ズキンと痛みが走り、肩の筋肉も痛んだ。



 パソコンの授業が終わってから外科に行くと……

「五十肩ですね。炎症が収まるまで3ヶ月くらい無理しないでください」と医師に言われた。


 3ヶ月? 検定試験は、あと半月ほどなのに肩が痛くて大丈夫だろうか?


 ❃


 武田はパソコンの練習をするものの、肩が痛むのでどうにも集中できなかった。

 クラスの多くの者は仕事で文字の入力はしていたので、10分間で350文字の入力をクリアしていた。


 武田は3つの課題の内、文字入力だけが間に合わなかった。そこで考えた。

 先生は合格の採点については公開されていないが、1つの課題につき7割程度できれば合格になると言っていた。それなら、文字入力も350文字ではなく245文字でいいのではないか?


 武田は模擬試験で文字入力を350文字入力すると時間が無くなるので文字入力を約10分で150文字打ったら、次に第2課題を8~9割やり第3課題も8~9割をやる。残った時間を文字入力の残りにあてた。


「よし、できた!」

 このやり方なら100点はないが3つの課題は7割以上の点数を取れる。


 武田はワープロ検定 3級の合格ラインに入った。



 ❃



 まえにやったコンピュータサービス技能評価試験 表計算部門 3級の結果が出た。


 武田は合格だった。

 A4サイズの合格証書を受け取り、

 デカい合格証書だなと思っていた。


「武田さん、よかったね!」

 早坂さんが祝福してくれた。

「早坂さんも合格じゃないですか!」

 武田も早坂さんを祝福した。

 しかし、2級を受けた人達には合格者は少なかった。


 ❃


 家に帰り奥さんに合格証書を見せる武田。

 奥さんは「よかったわね」と一応褒めてはくれたが、どうでもいいという感じだった。


 しかし、武田は久しぶりの合格証書に興奮していて、お祝いに寿司屋に行こうと言い出した。

 夕飯の支度をしていた奥さんは、せっかく作ったのにと渋い顔をしていたが、夕飯は明日食べるからと強引に寿司屋に行くことになった。

 お祝いだから普通のお寿司屋さんに行きたかったが、失業中の身の上。回転寿司店に行くことにした。



 久しぶりに回転寿司店に行くと、寿司が回転していなかった。


「あれっ、なんで? 回転寿司で寿司が回ってないよ」

 武田が不思議そうにしていたら、奥さんが、今はコロナウイルスだから、お寿司も回転させないで注文するようになってるんじゃない? と言った。

 まさに、その通りで店員さんに注文するか、タッチパネルで注文するようになっていた。


「パソコンを使って注文するの!?」

 武田はタッチパネルでの注文は初めてだったが、すぐに理解した。


 これくらいは、検定試験に比べたら簡単だ。だが、ついこのあいだ、(何十年も前だが武田にとってはこのあいだ)回転する寿司屋が出来たと驚いていたのに、もう回らなくなったのか……


「時代はパソコンか? パソコンを使えないといろいろと不便になるんだな。お前も習うか?」

 武田は奥さんにもパソコンを勧めたが、奥さんは機械はまるでダメでスマホも苦手だった。しかし、口は回る人で、武田は言い争いになるといつも負けていた。

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