第19話「人工股関節」
朝、教室に入ると
「おはようございます。今度はなんですか?」
「あぁ、おはようございます。これは膝の痛みを取る方法をやってるんですよ」
「へえ〜っ、膝ですか。僕も膝は悪いんですよ」
武田は自衛官時代は、よく走っていた。
仕事の終わりは、皆んなで駐屯地の中を走っていた。
50歳を過ぎたころから膝に痛みは感じていた。
「それじゃ、武田さんもいっしょにやりましょう」
早坂さんの誘いに乗って武田も膝の痛みの取り方を習った。
「この、ふくらはぎをよく揉むんですよ。ここの循環が悪くなると膝の血流が悪くなり痛みが溜まるんです。ほら、武田さんのふくらはぎにも靴下のゴムの跡がついてるでしょ」
武田のふくらはぎには靴下のゴムがあたる部分が横に線のようになっていた。
「痛みって溜まるんですか?」
「詳しくはわかりませんが、痛み物質と言うものがあるようで、血液の循環がよければ、その痛み物質が血液に流されるようです」
「私もお風呂や温泉に行くと股関節や膝の痛みは少なくなりますよ。たぶん血液の流れがよくなるんでしょうね」
苫ノ地さんは50代の女性。
最近、股関節の手術をして人工股関節にしたらしい。しかも両股関節とも人工股関節にしたようだ。
「失礼ですけど、人工股関節にしたら痛みとかは無くなるのではないのですか?」
武田が恐る恐るたずねる。
「手術でいっぱい切っているので、まだ痛いですよ。何年かしたら痛みは無くなるかもしれませんけどね」
「それは、そうですね。大手術ですもんね。僕も最近、歯を治したんですよ。下の歯が欠けたので、ついでに詰め物の脇が虫歯になっている上の歯2本ですけどね」
「歯ですか……」
人工股関節の手術と歯の詰め物では比較にはならないが、武田は手術を受けた事はなかった。
「下の歯は詰め物を入れた日から違和感がなくて良かったんですが、上の歯は看護師さんが詰め物を削り過ぎて医師が怒っているんですよ。それで、その詰め物は直すことになって、後日入れたんですが、どうも違和感があるし水を飲むとしみるんです」
「それは看護師さんが失敗したんですか?」
「削り過ぎた部分は、また付けてもらって直したようなんですけど、下の歯の詰め物を削ってくれた看護師さんは丁寧に何度も確認しながら削ってくれたんです。だからか、下の詰め物は違和感がなかったし、水がしみることもなかったんです」
「上の詰め物はザツだったんですか?」
「そう、話しながら削っていて確認も少なかったんです。入れてから3ヶ月くらいは違和感があるし、水を飲むとしみるし、別の歯医者に行って、これを外して新しいのを入れてもらおうかと真剣に考えましたよ」
「それは大変ですね」
「股関節の手術に比べたら全然小さい出来事なんですが、半年くらいしたら馴染んで違和感もなくなって水もしみなくなったんです。きっと、苫ノ地さんの股関節も時間がたてば馴染むんじゃないですか?」
「ありがとうございます。馴染んでくれたらいいですけど……これで膝も痛くなって人工膝関節にしますなんて言われたらどうなるんでしょうね?」
「昔、サイボーグの足の女性のテレビドラマを見てましたよ、凄いジャンプ力で……あっ、すいません。失礼でしたね」
「いえ、いえ、大丈夫です。私も見てましたよ、そのドラマ。あんなサイボーグができれば楽なんですけどね、私は飛び上がるどころか、トイレでしゃがむことができないので和式のトイレだと困ってしまいますよ」
❃
授業が始まり、いつもの文字入力。
苫ノ地さんは10分入力で500文字を越えている。
武田は、相変わらず150文字だった……
もっと頑張れ武田。
❃
昼休み、武田はコンビニ弁当を食べながらパソコンでインターネットを見ている。
人工股関節か、足の骨を人工にするんだから大手術だろうな……しかし、なんでそうなるんだ? パソコンで調べてみるか。
パソコンで検索する武田。
主な股関節症の疾患。
変形性股関節症。加齢や股関節の使い過ぎか、使い過ぎもダメなんだな。生まれつき
これは聞いたことがあるぞ、スナックの若い女の子が股関節が外れるとか痛むというのは言ってたな……
次は関節リウマチか、全身の関節に起こる炎症性疾患で原因ははっきりしていないが、自己免疫疾患であると考えられている。
手の指の関節が曲っている人がけっこういるもんな。
それから、大腿骨骨頭壊死症か、難しい漢字が並ぶな、大腿骨頭への血流障害による骨の破壊。早坂さん膝も血流って言ってたけど、血流って自然に流れないのかな?
ステロイドを大量に服用している。
ステロイドって自己免疫疾患の薬じゃないのか? リウマチか?
アルコール摂取量が多いと発生しやすい。
酒でなるのか!?
これじゃないのか?
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