第15話「チャンバラ」

「早坂さん、オシッコを気持ち良く出す方法というのはどうやるんですか?」

「ああ、あれですか、簡単ですよ。そけい部を揉むんです」

 武田と早坂さんが学校の昼休みに弁当を食べながら話している。


「そけい部ですか……」

「股関節にはさまれた大事な部分ですよ」


 武田は自分の股関を触ってみる。

「ここを揉むんですか!?」

「揉むというか、押すというか、なでるというかですね……優しく触るんですよ」


「それは、ちょっといやらしいですね」


「人前ではできませんね、やったら変態ですよ」

「確かに、こんなとこ触っていたら変態ですね……」


「コルというわけでもないので、普通は触らない部分ですね。しかし、椅子に座っていると圧迫されている部分なんですよ」

「あんまり実感はないですけど、そんなもんですか」

「下着なんかでもゴムで締め付けるじゃないですか、中年になると腰にゴムで締めつけられた跡というかへこみがつくんです」


「下着ですか、あまり気にしたことはないですけど、僕はボロボロになったパンツが好きでずっと履いてますね。嫁さんにボロボロのパンツを捨てられて悲しかったことがありますよ」


「それは、たぶんゴムの加減がボロボロになったパンツが最高にいい具合になってるんでしょう。キツくもなくゆるくもなく」

「そうかもしれませんね。新しいのはゴムがキツイかもしれませんね」


「ノーパン健康法なんてのもあって、寝る時にパンツを履かない人もいますよ」

「それは、ちょっと恥ずかしいですね……」

「パンツは、今では常識ですが、最近のものですよ。100年くらい前からでしょうね。時代劇では“ふんどし”でしょ。戦時中の写真に、ふんどしはよく見かけるし、女性は着物の時代はノーパンですよ。パンツを履きだしてから女性が強くなってきたような気がしますね」


「そうですね、着物の女性はおしとやかなイメージがありますね」


「私の子供の頃は、日本は大日本帝国で軍事国家ですから、男が威張っていました。男が料理や育児をすれば軟弱者と言われるような時代です。しかし、今は奥さんが旦那に大声で料理や育児を手伝ってと言う時代だ。主夫なんて家事をする男も珍しくなくなった」


「うちの嫁さんも食器を洗ってくれと言いますね」

「生活のスタイルがアメリカ式になってきてます。それは良いことなのかもしれませんが、私は、男が威張っていた時代が懐かしいですね。三歩下がって師の影を踏まずで、妻も三歩下がって歩いていた時代です」


「うちの嫁さんは、僕の前を歩いてますよ」


「教育が変わったんじゃないですかね、昔は家単位で、家のための結婚や、稼ぎを家に入れるとか、家の恥と言うのが当たり前だったんですが、今は個人主義で、結婚は自分で決めるとか、自分の給料は自分のものという考えで、家というものはあまり考えないのではないでしょうか?」


「家ですか、そういえばテレビのドラマで戦争中に捕虜になった男が、自分が捕虜になったことが家族に知れたら大変なことになると言って、自決しようとするシーンがありましたよ」


「戦争中は、それが普通ですよ。教育が『生きて虜囚の辱めを受けず』と言うのが国民の合言葉でしたからね、家の中から捕虜が出たなんて知れたら、職場でも学校でもイジメの対象です。仕事をクビになっても全然おかしくないっていう時代です」


「恐ろしい時代ですね」


「命が安かった。潔く死ねっていう時代ですからね。みんな生きるのに必死でした。ソビエト連邦もスターリンの時代は、ずいぶん戦死者が出たそうです。逃げようとする味方を撃ち殺す部隊まであったそうです」


「ソビエト連邦ですか、あそこも凄かったようですね、あまり報道されないからわからないですけど……僕は自衛官でしたから、軍国主義の時代は、ちょっと憧れがあるんですけど……」

「昔は、何にも無かったですから、人と争うことくらいしか楽しみが無かったのかもしれませんよ」

「争うのが楽しみですか、ちょっと問題発言になりますよ」


「戦争はやり過ぎです。殺し合いじゃなくて、鍔迫つばぜり合いですよ。チャンバラみたいなものですね。ご近所さんとちょっと言い争ったり、ちょっと問題を起こす程度で自分を主張する人が多かった」


「チャンバラですか、シャンバラみたいですね。僕も若い隊員をからかって怒らすのは好きでしたね」


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