第13話「イマージン」
「想像してみてください、皆さんがパソコンの検定試験に合格して、合格証書をもらうところを。想像してみて下さい、皆さんが就職して、パソコンで文章を作っているところを、なんてすばらしいのでしょう」
パソコン教室で担任の山口先生が話している。まだ若く理想に燃えているようだ。
スタイルもよく、趣味はマラソン。夢はホノルルマラソンを完走することらしい。
「皆さん、エクセルの検定試験、お疲れ様でした。結果は1ヶ月後くらいになります。それで、今度はワードの検定試験が卒業の前にあります。受験は任意ですが、授業もワードに入りますので、この機会に是非受けてみてください」
エクセルが終わったと思ったら、今度はワードか、しかしエクセルとワードの資格を持っていたらカッコいいな!
妄想をする武田であった。
「それでは、いつものように10分間の文字入力から始めましょう」
山口先生がプリントを配る。
文字入力はプリントに書かれている文章を、そのとおりにパソコンで打つ練習でありる。プリントには約350文字の文章が書かれている。
職業訓練での目標が10分間で350文字を入力するというものだが、クラスの半分くらいは、すでに350文字を越えていた。
文章を最後まで入力して、また最初に戻り入力をして500文字を越える者が何人かいた。
仕事でパソコンを使っていた者が多いので、文字入力が早いのだ。
武田は、まだ10分間で150文字程度だったが、パソコンを使って文字を書くことはできるようになっていた。
ワードの検定試験は10分間で350文字を越える者は2級を受けても合格ラインに入ると山口先生は言っていたが、エクセルの試験で2級を受けた者が、覚える関数の多さに頭を抱えていたので、10分で350文字を入力できる者も3級にするか、2級にするか悩んでいるようだ。
武田は、もちろん3級だ。
早坂さんも3級を受けるらしい。
岡崎くんは2級を受けるようだ。
ワードの試験まで、まだ1ヶ月以上ある。武田は、頑張れば10分間で350文字もきっとできると思っていた。
❃
(早坂さん、寝ているのかな? まさか座ったまま○んでしまったとか……)
武田の隣の席の早坂さん、椅子に座って目を閉じて動かない。
よ〜く見ると、わずかに動いている。
「武田さん、マインドフルネスって知ってます?」
しばらくして早坂さんが目を覚ました。
「マインド? なんです、珈琲豆の名前ですか?」
「珈琲豆じゃないですよ。マインドフルネスは瞑想です。深呼吸して頭の中をスッキリさせるんです。座禅みたいなものですけど、座らなくてもいいんです」
「瞑想ですか、僕は妄想は激しいですけどね。はっはっは……」
「妄想もいいですね。若返る。若い娘が足を出して歩いているといいですね……」
「早坂さん、まだ若いですね」
「私は、もう頭の中だけですよ……頭の中も今はパソコンだらけで、さっきは瞑想でスッキリさせていたんです」
「瞑想でスッキリするんですか?」
「パソコンの動きが悪くなったら、いったん電源を切ってみるようなものですかな?」
「それが瞑想ですか?」
「仙人は、よく座禅をしていたんですよ。体を動かす行法の後でしてましたね」
「それをすると、どうなるんですか?」
「そうですね、気持ちが落ち着くとか、頭の中のいらない物が無くなるのかな? 頭の中の掃除みたいなものでしょう」
「頭の中を掃除するんですか!?」
「よく眠れないって言う人がいるじゃないですか、そういう人は頭の中がいっぱいになっていると思いますよ」
「いますね、眠れないって人。僕の部隊でも毎日、睡眠薬を飲んでいるのがいました。睡眠薬がないと眠れないって……」
「何かを考えると眠れないんです。眠れないから夜中に何回もトイレばっかり行くんです」
「そういう事もありますね。夜中はトイレに行かないでぐっすり眠りたいですね」
「本来、夜中はオシッコを作らないようにホルモンが出るそうです。眠れないことで、そのホルモンも出なくて夜中でもオシッコが作られるようです」
「うまくできてるんですね。人間の体は、僕も8時間ぐっすり寝てみたいです。僕の頭もホルモンの出方が悪くなってるようで夜中もオシッコを作りまくりです……」
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