第11話「エクセル検定試験」

 コンピューターサービス技能評価試験。

 通称CS検定。


 国の定める法律「職業能力開発促進法」で職業能力評価の専門機関として設立された職業能力開発協会が行う試験。


 武田は表計算(エクセル)部門の3級を受ける。

 この検定試験は職業訓練で行なわれるもので一般的な試験ではない。

 表計算3級の合格率は約70%と高いが、これは職業訓練で模擬試験を何度もするからで、一般でパソコンを使っている人でも、いきなり検定試験を受けたとしたら合格は難しいだろう。


 3級の制限時間は45分。武田は模擬試験では時間内に全問解けるようになっていた。


 わかる! わかるぞ!

 模擬試験と似た問題だ。

 武田は調子よく問題を解いていた。


 武田が高校生の頃、パソコンは1台100万円もする高価な物で一般的ではなかった。

 高校を卒業して自衛隊に入隊してからもパソコンを使う事はなかった。しかし、やってみたいという気持ちはあり、何度か本を買って読んだりはしていた。しかし、どうやっていいのかわからず今までパソコンをしなかった……


 よし! これで完成だ!

 名前も書いた。受験番号も書いた。

 時間は、まだ1分ある。

 よし、いけるんじゃないか!?


 武田は試験問題を解いて合格を確信した。

 パソコン教室に通い始めて1ヶ月ちょっとである。エクセルも全く知らなかったのに基礎的な3級の問題はできるようになっていた。


 早坂さんも3級を受けていた。

「武田さん、どうでした?」

「はい、全部できました!」

「そうですか、それは凄い!」

「早坂さんはどうだったんですか?」

「私は全部は出来なかった……9割くらいですね」

「9割でも大丈夫じゃないですか?」

「そうですね、いまさら資格も何も関係ないんですけど、それでも合格したいですね……」

「そうですね、合格証書、欲しいですね」


 ❃


 武田と早坂さんは試験が終わった開放感から一緒に食事をしようということになった。

 時間は昼の2時過ぎ。

 パソコン教室の近くに餃子が美味いと言う評判の店があり、そこに行くことにした。

 餃子の皮も店で手作りの本格的な店である。

 二人は店に入り餃子を頼んだ。



「武田さんはパソコンを使う仕事を探すんですか?」

「そうですね、まだ考えてないんですけど、自由にトイレに行ける仕事がいいなと思っているんです」

「トイレに?」


「ええ、僕は最近なんですけどトイレが近くて、それで、前は警備員をしていたんですけどトイレに行き過ぎるってクビになったんです」

「トイレでクビとは……昔は立ちションで苦労しなかったんですけどね……フランスの貴族も昔は庭や宮殿の廊下でオシッコをしていたらしいし、現代は外でオシッコはさせてもらえないね」


「僕も自衛官時代はトイレで苦労することはなかったんですけど、最近急に近くなったんです」


「男性は歳を取ると前立腺が大きくなるっていいますからね」

「早坂さんは夜中にトイレに起きたりしないんですか?」

「そうですね、あんまり起きないけど、たまに行くかな? そんなに気にしたことはないですよ」

「それはいいですね。僕は何度も夜中にトイレに行くので、嫁が怒っちゃて今では別々の部屋で寝てますよ」


「それは大変だ。病院で診てもらいましたか?」

「ええ、薬ももらって飲んでるんですけど、夜中は2時間おきにトイレに行ってます」

「そんなに行くんですか! それは何とかしたいですね」

「どうやら、糖尿病も関係しているようで血糖値が高いと言われたんですけど、まだ糖尿病の治療はしてないんです。でも、夜中に凄く喉が渇いて水を飲むんですけど、その時の水が旨くてガブガブ飲むんです。だから夜中もトイレばっかり行ってます」


「糖尿病も現代病ですね。戦前は“金持ち病”と言ってたんですよ。それくらい糖尿病の人はいなかった」

「そうなんですか!? 歳をとるとなる病気ではないんですか?」


「昔は食べ物が無かった。甘いものなんてめったに食べられないし、こんな餃子のような肉も食べられませんよ」


「やっぱり、食事も変わっているんですか?」

「そりゃ〜〜っ、もう、今の人は戦前の人からみたら大金持ちですよ。毎日、お菓子にジュース。コーヒーなんて、昔は、とても飲めるような生活じゃありません」


「そうですね、甘い物は山程ありますね。しかも安い! コーヒーも何杯でも飲めます」

「昔の食事にしたら糖尿病なんて一発で治りますよ。ご飯に味噌汁と魚、しかも量が腹半分……」



「お待たせしました」

 熱々の焼き餃子が運ばれてきた。


 餃子を食べ始める二人。

「これは、本格的な餃子ですね。皮も厚いしデカい、餃子と肉まんの中間みたいだ!」

 早坂さんが美味しそうに食べている。

「そうですね、スーパーで売っている餃子とは別物だ! これが本当の餃子なのかもしれないですね。糖尿病は怖いけど、旨いものは食いたいですね……」


 美味い物の誘惑には勝てない武田であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る