第1章 想ひに縋りて君を書く

第5話 出会い

「ハイ!ハイ!ハイ!」


昼下がりの剣術道場。オレンジかかる空が遠くから襲い掛かってくるよう。


「今日はこれでお終い!お疲れ様でした!」

「おう。お疲れ!」

「私はもう少し練習する。」


小薗は木刀を持って意気込みとともに足を庭へ向ける。

その様子を見た真琴は「無理すんなよ。」と背中に声をかけた。

それに小薗は「おう。」と手を振って真剣な面持ちで外へ出た。


~出会い~


涼しい風が服の隙間から入り込み汗を冷やす。

まだまだ頑張らなくては、あの異次元並みに強い恒成には勝てやしない。


「やらなきゃ。」


だって...

シュバッと木刀を上から下へ振り下ろす。

だって、私は女らしくなんかできない。裁縫も料理もできない。

お嫁になんかごめん葬りたい。

ならば私にできるのは恒成を殺して多額の賞金をもらって裕福になること。

それが私の最善の家への大切な人たちへの恩返しなのだから。


「やぁ!!!!」


そう叫ぶと後ろからおじいさんの声がした。


「小薗さんは元気じゃの。」


低くて渋い声に内心ビビる。そんなおじいさんに警戒心を持った。

即座に木刀をおじいさんの方へ向ける。


「誰だ。」

「家主から道場を借りてる身で、そんな態度でよろしいのかい?」


そういわれて気づいた真琴と惣一に道場で練習し始めたころに紹介された家主のおじいさん。

あまり関わる事がないだろうと思い記憶が疎かになっていた。


「すみません。」

「構わん。それよりお茶せんか?そろそろ日が暮れる。暗がりの中そんな動くのは危険じゃ。」


私は少し考えた後コクりと頷いて木刀を下ろした。


―――・・・


「えっと。名前なんでしたっけ?」

「わしの名は哲三てつぞう。役職は詩人じゃ。」


私は「へぇ~。」と簡単な声を上げる。詩人、すなわち文学で稼いでる人。

そんなの武士家系の娘である私は見たことも触れたこともなかった。

なので、適当に「どんなの書くんですか?」と聞いてみる。

すると哲三じいさんはお茶をすすって答えた。


「この世のありふれた日常じゃ。基本、老若男女皆、分かり合えるような。そんな他愛もない日常。」


そしてまたお茶をすすって言う。


「小薗さんがもし、詩を書くとしたらきっと、こんな老いぼれの日常なんかよりもきっと鮮やかなものができるだろう。何故なら、小薗さんにはまだ先が長い。伸び代がある。」

「私はそんなの書けませんよ。私ができるのは剣術と喧嘩ぐらいで、それ以外はなにも。」


哲三じいさんはふっと笑い言った。


「書いてみるかい?」


その哲三じいさんの言うことにフリフリと頭を振って答える。


「無理ですよ!だって、私本当にこういうのを読んだこともないんですよ。」

「読んだことがないのなら、読んでみればいい。」


手渡されたのが詩集だった。きっと哲三じいさんが書いた詩達。


「読んでみてから答えをだしなさい。小薗さんは今、別の何かを果たすためにがんばっているのじゃろ?でも、たまには息抜きも大事じゃ。」


私は哲三じいさんの話を聞きながらペラペラとこの詩集を開いてみた。

正直こんなの読んでも飽きる気しかしない。だけど。


「分かりました。読んでみます。」

「あぁ、感想を聞かせておくれ。」


たまには新しい世界を見てみるのもいいかと思った。


~真琴と小薗~


「じいちゃん余計なことしないでよ!」

「おじいちゃん!?」


哲三じいさんは真琴のおじいさんと判明したのはこのお茶会の直後。


「おー、真琴や。わしは余計なことしとらんよ。小薗さん、今日はもう遅い。泊まってくといい。」

「はい。ありがとうございます。」


私が素直にお礼を言うと哲三じいさんは満足したようにこの場を後にした。

その様子を見た真琴は「もお〜。」といいながらため息をした。


「ごめんな。小薗。」

「ううん。特に何も無かったし。」


私は横に首を振った。


「真に受けなくていいからな!どうせ、弟子が欲しいだけなんだから。」

「そうなのか?」

「そうそう!小薗は恒成を殺すという目標があるんだし、無理して体調崩したらと思うと...。」


私は少々苦笑して「大丈夫だよ。」と言った。

それに「そうかな〜。」と真琴は頬膨らます。


「別にこれを書いてみると決まった訳ではないし、私でも出来ないとは思ってる。私は剣術しか取り柄ないし。」

「そっか。それじゃ、そろそろ夜ご飯にしよっか。」


私はコクりと頷いて立ち上がった。


「なんか手伝うか?」

「それじゃ、あそこにあるお盆出してくれ。」

「了解!」


そうして、哲三じいさんと真琴の家でお泊まり会が始まった。

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届ロキ恋刃 衣草薫創KunsouKoromogusa @kurukururibon

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