第16話 謎の少女
それからピザが届き、少したわいもない話しをしながらピザを食べ終えた。
リビングの窓から見える空には、青空が雲の隙間からちらほらと見える。俺と七瀬川さんをびしょ濡れにした雨雲は去って行ったようだ。
流石にこのままではいけないと思い、俺はショッピングモールに出掛けようと七瀬川さんを誘った。
◆
駅前からバスに乗り、郊外にあるショッピングモールに着く。ショッピングモールは二階建で、店舗数は約100店舗とこの辺では一番大きい。
「さて、俺はノートを買いたいけど、七瀬川さんは何か買うものはある?」
「と、桐芭君のお弁当箱を、い、一緒に選びたい……です」
ショッピングモールの二階にある文房具店の後に日用品雑貨店に行き、俺の弁当箱を見に行った。
「男の子用って意外に地味ですね……」
「あんまり可愛いくても困るからね。これなんかどうかな?」
俺はベースが白で水色のストライプ柄の弁当箱を手に取る。
「爽やかでいいかも」
俺は会計に持って行き、代金を支払う。明日、この弁当箱で七瀬川さんの手作り弁当が食べられると思うと、自然に顔がにやけていた。
「桐芭君、楽しそうですね」
「うん。明日のお昼ご飯が、今から楽しみだよ」
ニコニコしながら雑貨店を出たところで、クラスの女の子二人に出くわしてしまった。
「あ、葉月君」
「うっ、こ、こんちは」
女子二人は俺の顔を見た後に七瀬川さんの方を見る。
「やっぱり1組の子と付き合ってるんだ」
「ま、まぁ、まだ準備中だけど……」
「へぇ~。七瀬川さんだっけ? 羨ましいな~」
七瀬川さんは赤い顔をしてコクンと頷いたまま俯いてしまった。
「じゃ、じゃあまた教室で」
俺達はそそくさとその場を立ち去る。しかし彼女達の会話が耳に入ってしまった。
「あの子、地味よね~」
「葉月君には合わないよね」
「葉月君、イケメンなのに勿体ないよね~」
雑貨店から離れても七瀬川さんは俯いたままだ。
「さっさのアレ、気にしなくていいんじゃない」
七瀬川さんは俯いたまま小さな声で
「うん。大丈夫。い、言われている事は知っていたし……、か、覚悟していた……事だから……」
しばし沈黙が続いてしまったが、俺達は一先ず休憩って事で、フードコートに向かった。
途中でお手洗いに立ち寄り、さっさと済ませた俺は、近くにあったベンチに座り、七瀬川さんがくるのを待っていたのだが、お手洗いから出てきた七瀬川さんは雰囲気が少し違っていた。
「七瀬川さん」
彼女が座っていた俺に気が付く。特徴的な極太赤縁眼鏡は一緒なのだが、髪型が三つ編みツインテールではなく、後ろに一つに束ねた三つ編みに変わっていた。
服装も先程の服ではなくて、白のブラウスだ。朝着てた服かな?
「それじゃお茶にしようか」
俺は敢えてイメチェンした事には触れなかった。さっきの事を気にしているのか、トイレで何かあったのか? 聞かない方がいいかもしれない。
コーヒーショップで俺はアイスコーヒー、七瀬川さんは抹茶ラテを買い、四人掛けテーブルに座った。
何かおかしい? 先程から七瀬川さんが俺の顔をチラホラ見ている。
「な、何か顔に付いてる?」
「ううん。こんなイケメンと一緒にお茶するの初めてだから」
矢鱈ニコ顔の七瀬川さん。あれ? 雰囲気も少し違うような……?
「この後どうするの?」
「七瀬川さんは他に買う物はないのかな?」
「ん~。明日のオカズかな~」
「お、俺のお弁当は残り物とかでいいよ」
「ん? お弁当?」
「……?」
「ん?」
「……?」
「あ~そうそう! お弁当、お弁当、唐揚げとかは好き?」
「……唐揚げは大好きだよ?」
「味付けは濃いめ派? 薄め派?」
「濃いめ派」
「玉子焼きは甘口派?」
「余りに甘いのはちょっと」
「ふ~ん」
「凄いニコニコしてるね」
七瀬川さんってこんなに顔で笑うタイプだったっけ?
「そりゃぁ〜も~。それで確認なんだけど、女の子はどんなタイプが好き?」
「はい?」
「私みたいなのってどうかな~と思って」
「…………」
「私の事はどう思ってるのかな~って」
「え、あの、今?」
「うんうん。今、今!」
マジか? なんだこの押しの強い七瀬川さんは?
「早く、早く~」
「え~、あの~、……す」
「お母ぁさんッ!!」
あれ? 七瀬川さんが二人? 何? え? 双子? え? お母さん?
「えぇぇぇぇぇッ! お母さん!!??」
「初めまして。七瀬川芭月の母です」
ペコりと頭を下げる七瀬川さんのお母さん?
お母さんなの? 何処からどう見ても七瀬川さんですが。しかし比べてみると七瀬川さんよりは少し背が高く、七瀬川さんの方が……胸が大きい……。
「お母さん、今何か凄い事を桐芭君から聞こうとしていなかった?」
「そうよ! 芭月がもう少し気を使って遅く来てくれたら、ちゃんと返事聞けたのに~(プンプン)」
「プンプンじゃないです! 恥ずかし事しないでよぉ~」
「お母さんだってイケメンの少年から愛の告白されたいのよ~」
な、七瀬川さんのお母さん……、七瀬川さんとは全然性格が違いますね……。
「も~う、帰ってよお母さん!」
「まだラテ残ってるし、少しだけ、ネッ」
「も~う」
七瀬川さんはそう言って俺の隣に座ろうとした。慌てて俺は奥に詰める。
隣に座った七瀬川さんは
「それ飲んだら直ぐに帰ってよ」
と言いながらアイスコーヒーのストローに口を付け、ツーツーとアイスコーヒーを飲み出した……。あの~……。
「へぇ~、彼氏のコーヒーとかは素直に飲める仲にはなっているのね」
七瀬川さんのお母さんがクスっと笑う。七瀬川さんはみるみると顔が、耳が、真っ赤になって行った。俺も何気に顔が火照ってきた。
「はわわわわわわ」
超焦りながら俺の方をウルウルした涙目で見る七瀬川さん。
「うん……。俺が飲んでたやつ……」
頭から湯気が出始めた七瀬川さん。
「仕方ない子ね~。もう1つ買って来てあげるわよ」
七瀬川さんのお母さんは席を立つとコーヒーショップへと歩いて行った。
「お、面白いお母さんだね」
言葉を掛けても現実に帰って来れない七瀬川さん。まったく対応が分かりません。
「先ずは深呼吸しよう! うん、そうしよう」
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