第16話 謎の少女

 それからピザが届き、少したわいもない話しをしながらピザを食べ終えた。

 リビングの窓から見える空には、青空が雲の隙間からちらほらと見える。俺と七瀬川さんをびしょ濡れにした雨雲は去って行ったようだ。


 流石にこのままではいけないと思い、俺はショッピングモールに出掛けようと七瀬川さんを誘った。





 駅前からバスに乗り、郊外にあるショッピングモールに着く。ショッピングモールは二階建で、店舗数は約100店舗とこの辺では一番大きい。


「さて、俺はノートを買いたいけど、七瀬川さんは何か買うものはある?」


「と、桐芭君のお弁当箱を、い、一緒に選びたい……です」


 ショッピングモールの二階にある文房具店の後に日用品雑貨店に行き、俺の弁当箱を見に行った。


「男の子用って意外に地味ですね……」

「あんまり可愛いくても困るからね。これなんかどうかな?」


 俺はベースが白で水色のストライプ柄の弁当箱を手に取る。


「爽やかでいいかも」


 俺は会計に持って行き、代金を支払う。明日、この弁当箱で七瀬川さんの手作り弁当が食べられると思うと、自然に顔がにやけていた。


「桐芭君、楽しそうですね」

「うん。明日のお昼ご飯が、今から楽しみだよ」


 ニコニコしながら雑貨店を出たところで、クラスの女の子二人に出くわしてしまった。


「あ、葉月君」

「うっ、こ、こんちは」


 女子二人は俺の顔を見た後に七瀬川さんの方を見る。


「やっぱり1組の子と付き合ってるんだ」

「ま、まぁ、まだ準備中だけど……」


「へぇ~。七瀬川さんだっけ? 羨ましいな~」


 七瀬川さんは赤い顔をしてコクンと頷いたまま俯いてしまった。


「じゃ、じゃあまた教室で」


 俺達はそそくさとその場を立ち去る。しかし彼女達の会話が耳に入ってしまった。


「あの子、地味よね~」

「葉月君には合わないよね」

「葉月君、イケメンなのに勿体ないよね~」


 雑貨店から離れても七瀬川さんは俯いたままだ。


「さっさのアレ、気にしなくていいんじゃない」


 七瀬川さんは俯いたまま小さな声で


「うん。大丈夫。い、言われている事は知っていたし……、か、覚悟していた……事だから……」


 しばし沈黙が続いてしまったが、俺達は一先ず休憩って事で、フードコートに向かった。


 途中でお手洗いに立ち寄り、さっさと済ませた俺は、近くにあったベンチに座り、七瀬川さんがくるのを待っていたのだが、お手洗いから出てきた七瀬川さんは雰囲気が少し違っていた。


「七瀬川さん」


 彼女が座っていた俺に気が付く。特徴的な極太赤縁眼鏡は一緒なのだが、髪型が三つ編みツインテールではなく、後ろに一つに束ねた三つ編みに変わっていた。

 服装も先程の服ではなくて、白のブラウスだ。朝着てた服かな?


「それじゃお茶にしようか」


 俺は敢えてイメチェンした事には触れなかった。さっきの事を気にしているのか、トイレで何かあったのか? 聞かない方がいいかもしれない。


 コーヒーショップで俺はアイスコーヒー、七瀬川さんは抹茶ラテを買い、四人掛けテーブルに座った。


 何かおかしい? 先程から七瀬川さんが俺の顔をチラホラ見ている。


「な、何か顔に付いてる?」

「ううん。こんなイケメンと一緒にお茶するの初めてだから」


 矢鱈ニコ顔の七瀬川さん。あれ? 雰囲気も少し違うような……?


「この後どうするの?」

「七瀬川さんは他に買う物はないのかな?」


「ん~。明日のオカズかな~」

「お、俺のお弁当は残り物とかでいいよ」


「ん? お弁当?」

「……?」


「ん?」

「……?」


「あ~そうそう! お弁当、お弁当、唐揚げとかは好き?」


「……唐揚げは大好きだよ?」

「味付けは濃いめ派? 薄め派?」

「濃いめ派」


「玉子焼きは甘口派?」

「余りに甘いのはちょっと」


「ふ~ん」

「凄いニコニコしてるね」


 七瀬川さんってこんなに顔で笑うタイプだったっけ?


「そりゃぁ〜も~。それで確認なんだけど、女の子はどんなタイプが好き?」

「はい?」


「私みたいなのってどうかな~と思って」

「…………」


「私の事はどう思ってるのかな~って」

「え、あの、今?」


「うんうん。今、今!」


 マジか?  なんだこの押しの強い七瀬川さんは?


「早く、早く~」

「え~、あの~、……す」


「お母ぁさんッ!!」


 あれ? 七瀬川さんが二人? 何? え? 双子? え? お母さん?


「えぇぇぇぇぇッ! お母さん!!??」


「初めまして。七瀬川芭月の母です」


 ペコりと頭を下げる七瀬川さんのお母さん?

 お母さんなの? 何処からどう見ても七瀬川さんですが。しかし比べてみると七瀬川さんよりは少し背が高く、七瀬川さんの方が……胸が大きい……。


「お母さん、今何か凄い事を桐芭君から聞こうとしていなかった?」

「そうよ! 芭月がもう少し気を使って遅く来てくれたら、ちゃんと返事聞けたのに~(プンプン)」


「プンプンじゃないです! 恥ずかし事しないでよぉ~」

「お母さんだってイケメンの少年から愛の告白されたいのよ~」


 な、七瀬川さんのお母さん……、七瀬川さんとは全然性格が違いますね……。


「も~う、帰ってよお母さん!」

「まだラテ残ってるし、少しだけ、ネッ」

「も~う」


 七瀬川さんはそう言って俺の隣に座ろうとした。慌てて俺は奥に詰める。


 隣に座った七瀬川さんは


「それ飲んだら直ぐに帰ってよ」


 と言いながらアイスコーヒーのストローに口を付け、ツーツーとアイスコーヒーを飲み出した……。あの~……。


「へぇ~、彼氏のコーヒーとかは素直に飲める仲にはなっているのね」


 七瀬川さんのお母さんがクスっと笑う。七瀬川さんはみるみると顔が、耳が、真っ赤になって行った。俺も何気に顔が火照ってきた。


「はわわわわわわ」


 超焦りながら俺の方をウルウルした涙目で見る七瀬川さん。


「うん……。俺が飲んでたやつ……」


 頭から湯気が出始めた七瀬川さん。


「仕方ない子ね~。もう1つ買って来てあげるわよ」


 七瀬川さんのお母さんは席を立つとコーヒーショップへと歩いて行った。


「お、面白いお母さんだね」


 言葉を掛けても現実に帰って来れない七瀬川さん。まったく対応が分かりません。


「先ずは深呼吸しよう! うん、そうしよう」


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