第30話 大会一日目終了


「……ふぅ、勝てた」


 僕は"あきんど"さんとの試合を終え、ゲームチェアの背もたれに全体重を預けて一息入れていた。

 この大会で実感したけど、僕のFPS時代に培われた、人の動きを予測する読みはこれっぽっちも鈍っていなかった。

 僕の最大の武器は、この正確な予測だから、鈍っていたらもっと苦戦していただろうな。


「とりあえず、準優勝は確定したなぁ」


 ウィナーズ決勝で勝利した事によって、最低でも準優勝は確定した。

 明日はルーザーズ勝利者と対戦する事になる。

 この大会は非常に大荒れしていて、様々な大会で結果を残した人がルーザーズに転落してしまっている。

 その為、もしかしたらとんでもない人と決勝戦で戦うかもしれないんだ。

 しかも決勝戦では、十本先取となっている為、かなりの長期戦になるだろう。

 となると、僕の右手が持ってくれるかどうかがかなり心配だ。


「……相手に一本も取らせずに十本を取っていく勢いじゃないと、勝てなさそうだな」


 さて、これからルーザーズの試合が始まる。

 僕は本日お役御免となった訳だ。

 右手を休ませるか、それともオンラインに繋いで練習をするか、悩むところだ。

 すると僕のスマホから音がする。

 どうやら誰かが僕と通話をしたがっているようだ。


「誰だろ?」


 スマホを手に取ると、相手は奏だった。

 僕はすぐに電話に出た。


「もしもし、奏?」


『千明君、ウィナーズ勝利おめでとう!!』


 奏の声が明らかに弾んでいるのがわかる。

 僕の勝利を心から喜んでくれているし、テンションが非常に上がっているのもわかる。

 僕の事でこんなに喜んでくれるなんて、本当に嬉しくて仕方ない。


「ありがとう。でも、ルーザーズの面々を見ると、素直に喜べないんだよねぇ」


『ああ、確かに! だって今回"ウメヤマ"さんもルーザーズにいるからね……。正直不安だよ』


「ああ、あの人か……。今回かなり仕上がってるみたいだから、正直怖いよ」


"ウメヤマ"さん。

 日本にプロゲーマーという職業を持ち込んだ、日本初のプロゲーマー。

 FPSを専門にやっている人でも彼を尊敬している人は多いし、全然ジャンルが違うのに国内外からとんでもない知名度がある、日本のプロゲーマーの憧れでもある人だ。


 そんな人は今回一回戦で敗退し、ルーザーズ落ちしてしまった。

 理由としてはキャラクターの相性で僅差で敗北してしまったんだ。

 格闘ゲームはどうしてもキャラクターの相性が出てきてしまう。

 その相性を埋める事が出来ず、惜しい負け方をしちゃったんだ。


『それでさ、千明君……』


「うん?」


『この後って、何か予定、ある?』


「いや、特にないからどうしようかなって考えてた所。右手を休ませるか、もう少し練習するかってね」


『そっか! なら、さ。千明君に会いたいなぁって思ってるんだけど、いい、かな?』


 奏が恥ずかしそうに言ってくる。

 その声だけで、恋愛未経験の僕の心臓の動きは激しくなる。


「い、いいよ! 会おう!」


 少し声が裏返ってしまう。

 我ながら情けない……。


『よかった、断られたらどうしようかと思ったよぉ』


「……滅多な事が無い限り、僕は断らないよ」


『ありがとう! それで、さ。ちょっと外を見て?』


「えっ、外?」


 僕は部屋のカーテンを開けて外を見る。

 すると、奏が玄関前にいたのだ。


『あはは、実は事前に来ちゃってました……』


「ふふ、何とも行動が早い事で」


『だって、会いたかったんだもん』


 うっ、奏のはにかんだような笑顔の威力が凄まじい……!

 僕は電話で入るように促した。


(奏、可愛すぎだろう……)


 何でこんな僕に一途な想いを持ってくれたのか、未だに疑問だし自身が持てないけど、この想いにはしっかり応えてあげたい。

 心の中で、そう思うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

全てを諦めていた僕は、君と出会って再び夢を追い始める ふぁいぶ @faibu_gamer

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ