第29話 被弾は一切なし!


 ついに、ウィナーズ決勝が始まった。

 うん、程良い緊張感でむしろ絶好調だ。

 右手も痛みがないし、問題ないだろう。

 なら、ここでもう一つの戦法をお披露目と行こうじゃないか。

 恐らく動画とかで僕のカウンター戦法は対策されているから、ウィナーズ決勝まで温めておいたもう一つの戦法は、かなり効果的に働くはずだ。

 奏から、


「きっと勝てるよ、ファイト!」


 というメッセージが届いた。

 はは、僕も相当単純な男みたいだ、とても嬉しくて負ける気がしないよ。

 それに、須藤やクラスメイト達が沢山応援してくれている。

 

「……負ける気がしないな」


 自分の口角が上がるのを感じた。

 何せ三年ぶりの大舞台だ。

 緊張感もあるが、とってもワクワクしていた。

 久々のこの感情に、口角が上がるのを抑える事は出来なかった。


 そして、対戦は始まった。




――解説者"れ~じ"視点――


「さぁ始まりました、本日最後の試合であるウィナーズ決勝! リョウを操るのは、右腕にハンデを背負いながらもトリッキーな戦術でまともな被弾はゼロ! FPS界隈の救世主"NEO"選手!!」


 配信コメントには「8888888888888888」と、拍手の意味を指すコメントが飛び交っていた。


「対するは、関西からやってきた浪速のプロゲーマー。リョウと見た目がそっくりだけど角が生えている"修羅"を操り猛攻を仕掛ける"あきんど"選手!」


 立川さんの選手紹介はキレッキレだ。

 コメントも大盛り上がりだ。


「ではれ~じさん、この試合どう見ますか?」


「そうですね。恐らく"NEO"選手の戦法は、twitter等で切り抜きとして既にアップされているので、対策されているものだと思った方がいいのではないでしょうか」


「つまり、今まで通りに被弾せずに勝ち抜くというのは厳しいと?」


「僕はそう見ます」


「なるほど! "あきんど"選手は前に出て攻撃をガンガン仕掛けていくタイプですが、どのように対策するか見物ですね。それでは、試合を始めてください!!」


 "あきんど"君とは配信で何度か対戦したが、ヒット確認――自分の攻撃が防御されずに当たった瞬間を確認する事――が非常に上手く、コンマ数秒の判断がいる状況でも適切なコンボを叩き出せるプレイヤーだ。

 恐らく、彼の"NEO"対策は、削りに削ってKOではなくタイムアップを狙っていくのかもしれない。

 さぁ、どういう試合を見せる?


「ん? おっとぉぉぉ!? "NEO"選手自ら攻撃を仕掛けに行った!?」


「!? ウィナーズ決勝でまさかの行動ですね」


 ここで"NEO"は、一番リーチが長い攻撃を振って前に出始めた!

 じりじりと相手に歩み寄っていく!

 相手が何かしそうだなと思った瞬間に、弱攻撃で小さなダメージを与え、相手にプレッシャーを与えていく。

 あの"あきんど"君が前に出れず、後退していくだと?

 いや、彼も対抗して攻撃を振っている。

 だが、読んでいるかのようにブロッキングしてカウンターを取られてしまっている。

 いやいや。


 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。


 出来ないから、普通そんな事出来ないから!

 何だよ、前進しながら完璧にガードしたりブロッキングするって。

 しかも画面端まで運んでいく中で、ちまちまといやらしいダメージを蓄積させていっているじゃないか!

 自ら画面端まで下がってガードを固めるのは百歩譲って理解したとしても、前進しながら被弾無しってどういうこと!?


「な、なんと! 被弾ゼロで画面端まで追いやったぞ"NEO"選手!」


「…何か、とあるボクシングの選手を思い出しましたよ」


「あ、私もそう思いました」


 そこからは、もう"NEO"の一方的な虐めだった。

 何とか画面端から脱出したい"あきんど"君は絶妙なタイミングでジャンプをするが、待ってましたと言わんばかりに対空攻撃で叩き落される。

 そして投げに出ると匂わせておいて、実はシミーでしたと"あきんど"君の攻撃を空振りさせて攻撃を叩き込む。

 しかもガンガン攻撃している訳ではなく、所々右手を休ませているかのように攻撃をしないタイミングがある。

"あきんど"君はチャンスだと思ってジャンプするが、これも実はフェイクで対空技で手痛いダメージを負ってしまう。

 両者のキャラがぴったりくっついた状態で、投げを仕掛けても投げ抜けされるわ、攻撃を仕掛けたら完璧にガードされるかブロッキングされて全然前に出られない。"あきんど"君の持ち味は、完全に潰されてしまったのだ。


「"あきんど"選手、抜けられるか!? あぁぁぁぁぁ、抜けられずにラウンドを取られてしまいましたぁぁぁぁっ!!」


「……あはは、こんな戦術取られちゃったら、なかなか抜け出せませんよ」


「これまた被弾無しですよ? あり得ます?」


「……あり得ないでしょ。どうなってるんでしょうかね、救世主殿の頭の中。一度切り開いて見てみたいものです」


 うん、冗談のように自分で言っているが、本心はガチで彼の頭の中を見てみたい。

 どうやったらこんなに完璧に攻撃を捌けるんだ?

 無理だから、俺マジで彼と対戦したくねぇんだけど。

 そうこうしている内に、"あきんど"君が仕掛けた。


「おっと、"あきんど"選手、ゲージを使って《瞬天撃》を放った!!」


「いいタイミングですね。あれは投げ判定の超必殺技なので、うっかりガードしたら食らってしまいます」


「だが、"NEO"選手は読んでいた! 垂直に飛んで《瞬天撃》を回避し、空中大パンチからコンボを決めていったぁ! そして第一セットは"NEO"選手が完封勝利!」


「……はは、あれも読めてるなんて、化け物でしょ、化け物」


「……右手のハンデ、関係なくないですか?」


「無理無理、関係ないですよ! デマ情報なんじゃないですか?」


 本当、右手の後遺症って噓でしょ、マジで。

 そしてその後も被弾はなく、"あきんど"君を画面端に追い詰めてはボコる。

 ああ、これ"あきんど"君絶対に心折れてるわ。

 何か動きがあからさまに消極的になってるし。

 うん。

 あれだ。


(ご愁傷さまだよ、"あきんど"君……)


 そんな同情を"あきんど"君に送っていたら、一方的な試合展開でウィナーズ決勝を"NEO"が勝利した。

 これ、映画マトリックス最終作のエボリューションズのラスボスである"エージェントスミス"級の選手が出てこないと、マジで"NEO"の独壇場で終わっちゃうぞ、この大会。


 密かに祈ろう。

 ルーザーズ決勝で、エージェントスミスが現れる事を。

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