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メノーラ曰く、彼女の父であるイーデラフト公爵は、快くリーリエと会う約束をしてくれたそうだ。
王宮がバタバタとしている忙しい時期に、あえてリーリエに会ってくれることを、リーリエは感謝した。
「本日はお時間を取っていただきましてありがとうございます」
リーリエが頭を下げると「とんでもございません。リーリエ様」とイーデラフト公爵は首を横に振った。
「話と言うのは、今回の戦争の件です」
「分かっております。大臣の間でもだいぶ意見が割れました」
「そうですか。イーデラフト公爵。あなたはどう思っておりますか?」
リーリエは真剣に尋ねた。
彼がどう考えているかによって、メノーラとリーリエで一緒に考えた作戦が使えるかどうか変わってくる。
「クノリス様のお考えは理解できます。しかし、前回の内戦からだいぶ景気を取り戻してきた今、また新たに戦争を起こしたとして、その戦争がドルマン王国やその他の国までと戦うことになれば、我々の国は現状を持続できるとは思えません」
イーデラフト公爵は嘘をついているように見えなかった。
「メノーラから話を聞いておりますか?」
「はい。あらかたですが、リーリエ様。クノリス様に黙ってそのようなことをしてしまって本当に大丈夫なのでしょうか?」
「何かありましたら、私が全責任を負います。彼がなんと言おうとも、やはり戦争を起こさせるわけにはいかないのです。彼の目的はグランドール王宮の崩壊です。私は、王宮の人間達を一番知る人間ですから、どこをつけば一番いいのか分かっているつもりです」
かつてなくリーリエの真剣な表情に、イーデラフト公爵は深いため息をついた。
「リーリエ様。私は、基本的に王であるクノリス様には逆らえません。今までもこれからも王である人間にかしずいて生きてまいりました。ですが、今回は、あなたの意見に賛同しましょう」
「ありがとうございます。イーデラフト公爵」
リーリエが微笑むと「あなたが女王になる人間として、この国に来ていただいて本当によかった」とイーデラフト公爵が頭を下げた。
***
イーデラフト公爵との面談が終わって、メノーラがいつも通りに授業にやって来た。
「お父様との面談は大丈夫でした?リーリエ様。一応家で話をしておいたのですが……」
「ええ。大丈夫よ。メノーラ。思っていたよりもことはスムーズに運びそう」
「罠は仕掛けられたってことですわね。私、こんなこと人生で一度も経験したことないですから、ワクワクしますわ」
「私もよ。メノーラ。今にも心臓が飛び出しそう」
二人でコソコソと話をしていると、ノックの音がしてアンドレアがお茶を運んできた。
「お茶でございます」
リーリエは、メノーラの方を一瞥した後、アンドレアに「あなたもここへかけてくださる?」と声をかけた。
「……私は、臣下の身でございますので、そちらにはかけられません」
「あら、臣下の身分で私の提案を断るの?」
わざとリーリエは意地悪く言った。
リーリエの言葉は絶大だったようで、アンドレアは「失礼いたします」と不服そうであったが席に座った。
「アンドレア。あなたは、私が嫌い。そうよね?」
「……」
「いいのよ。嫌いで充分。私も嫌いだもの。あなたみたいな失礼なことを明け透けに態度に出すような人間は特に」
「お話はそれだけでしょうか?」
「あなたは戦争に反対なのよね?」
確認するようにリーリエが尋ねると、アンドレアは眉を潜めた。
「何度もそう申しております。せっかくクノリス様がこの地に平和をもたらせたのにも関わらず、まさか数年でこのような状態になるとは……」
メノーラの協力によって、アンドレアの素性をしっかり調べている。
アンドレアの実家は前王政にかなり癒着をしていた貴族のようで、その状態に嫌気がさしたアンドレアは、クノリスの派閥に入っている。
誰よりも正義感が強いアンドレアは、前王政が崩壊した時に、家族たちとの縁を切っている。
そこから、王宮で誰よりも良い国を作るためにクノリスを支えてきたのだ。
その彼が、クノリスの提案した戦争に難色を示しているということは、リーリエにとってチャンスだった。
「その責任は私も感じています。だから、あなたに協力して欲しいことがあるのよ。アンドレア」
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