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イーデライト公爵夫人は最初に会場入りして、入念に準備をしていたようだ。
会場は完璧に準備がされている。
イーデライト家の名に泥を塗るような真似をしてたまるかという勢いだった。
「お初お目にかかります。エリザベードと申します。主人と娘のメノーラをご贔屓にしていただいておりますこと、心よりお礼申し上げます」
本当にメノーラの母親なのかというほど、エリザベードは落ち着いて、リーリアに挨拶をした。
「いえ、とんでもございません。アダブランカ王国については、メノーラがいませんでしたら私一人で勉強するのは無理ですから……。今日メノーラは?」
「あちらに座らせております。今日ばかりは大人しくしていてくれればいいのですが……」
眉を潜めてエリザベードは口を一文字にしばっているメノーラをちらりと見た。
メノーラは、母親の指示通り身動き一つせずに、淑女を演じているようだった。
普段の様子を知っているリーリエからすれば、違和感しかないが。
眼鏡を外し、縮れた毛を一つにまとめヘッドドレスをつけている。
服装も普段の動きやすそうな無地のドレスとは違って、華やかな花柄の模様が描かれたドレスを着ていた。
「メノーラに声をかけても?」
「もちろんでございます。クノリス王。我が娘にチャンスを頂きましたこと、心より感謝を申し上げます」
「頭を上げてくれ。イーデラフト公爵夫人。あなたの旦那と娘が優秀だから、信用して任せられるのだ。もちろんあなたもだ。今日の茶会もよろしく頼むぞ」
クノリスの言葉に、エリザベードは深く頭を下げた。
クノリスと共に、メノーラの方へと足を運んだ。
「メノーラ」とリーリエが声をかけると、彼女は驚いたように顔を上げた。
「……はっ!リーリエ様とクノリス様!」
メノーラは突然視界に現れたリーリエとクノリスに非常に驚いたようだった。
「いつも、リーリエの指導をしてくれていることを、御礼申し上げる」
「そ、そんな!とんでもございませんですわ。王が私などにそのようなお声がけをしていただけるなど、身に余る光栄でございます。私が出来ることをしているまでです」
クノリスに声をかけられて緊張しているメノーラは、普段よりも口数が少なかった。
遠くから母親が監視しているというのもあったのかもしれないが。
「なんだ。非常におしゃべりだと聞いていたから楽しみにしていたのだが」
クノリスがからかうような口調で言うと、メノーラは顔を真っ赤にするのだった。
***
お茶会が開始されると、貴族達が続々とリーリエとクノリスに挨拶にやってきた。
グランドール王国からやって来た次期女王の顔を見ようと、人々は一目でも早く見て感想を語り合いたいようだ。
リストの名前を暗記していたおかげで、やり取りはスムーズに進んだ。
貴族たちは、まだアダブランカ王国に来てから数週間も経っていない他国の姫が自分たちの名前を把握していたことに驚いたようだった。
結婚に反対をしていると聞いていた貴族達も、笑顔で好意的に対応をしてくるので、表面上は新しい女王の誕生を喜んでいるようだった。
「疲れたか?」
挨拶が一通り終わると、クノリスがリーリエの顔を覗き込んで尋ねてきた。
「いいえ。大丈夫です」
気疲れはしていたが、グランドール王国での扱いを考えると天と地ほどの差だ。
表面上でも好意を受け取れるのは、有難いことだ。
「残念だな。君が疲れたと言えば、思い切り甘やかそうと思っていたのに」
「婚姻を結ぶ前に触れないという約束では?」
「君の中では触れることは、甘やかされるということなんだな。なるほど、なるほど」
「からかったんですね!」
顔が真っ赤になるのをリーリエは感じた。
「まだまだ元気があるようで何よりだ。では、狩猟に行って来るが、あまり賛成派や反対派など細かいことは考えないように」
真剣な表情を浮かべているクノリスを見て、リーリエは頷いた。
「分かりました」
「何かあったらミーナに伝えるように。それとガルベルとマーロを置いていく」
マーロとガルベルが、クノリスの指示を聞いてリーリエの傍に控える。
ガルベルもさすがにたくさんの貴族の手前、リーリエに対しての軽口を控えているようだった。
「ありがとうございます」
リーリエが御礼を述べると、クノリスは満足気に頷いた。
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