Episode04:舞踏会
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舞踏会の準備は着々と進められていた。
昼間に開催されるお茶会は、本来であれば女王になるリーリエが主催を務めるべきなのだが、まだアダブランカ王国に来て日が浅いということもあり、主催はメノーラの母親であるイーデラフト公爵夫人に決定した。
「ひぃっ!お母様が主催!」
決定事項をミーナから聞いたメノーラは、今にも白目を剥いて倒れそうな勢いだ。
しかし、メノーラにおいて仕事に手を抜くという発想はないらしく、貴族の令嬢たちのリストを事細かに作成してきてくれただけでなく、夜の舞踏会に参加する貴族達の詳細までまとめてきてくれた。
「ありがとう。助かります。今から一週間で覚えなくちゃいけないのよね……。覚えられるかしら」
「何かありましたら、お傍でサポートいたします」
ミーナが心強い言葉をくれたので、リーリアは些か安心した。
「ミーナ。私の結婚について反対している貴族たちところに印をつけるのを手伝ってくれない?」
「それはまたどうしてです?」
突然のリーリエの発言に、何かするつもりなのではないかと驚くミーナに「失態を犯したくないから」とリーリエは言った。
しかし、それは建前で、先日の事件について、前王政派の人間に支援している人物が紛れているのではないかと思ったからだ。
ミーナの聞いた話では、奴隷制度が廃止されて商売が成り立たず資金が足りないということだった。
それなのにも関わらず、現王政をてこずらせるほどの状況を整えるには、裏からバックアップしている人間がいるからだろう。
クノリスの狙いももしかしたらそこにあるのかもしれない。
リーリエを楽しませるためだけなら、わざわざ大規模な舞踏会やお茶会を城で開催させなくても、数人呼んで楽しい宴を開けばいいだけだ。
クノリスに尋ねたところで、正直には答えてくれはしないだろう。
リーリエがやるべきことは、反対派の人間達に接触して、怪しいと思われる人物を特定することだった。
***
お茶会は昼過ぎに城の庭を使って開催された。
ターコイズブルーとホワイトのストライプのテントが設置され、これでもかというほど贅沢に白い花が飾られている。
天候も晴れ、涼しい風がゆったりと吹いている。
お茶会をするには、絶好の日だった。
リーリエは、ミーナに若草色のドレスを着せてもらっていた。
胸元がほどよく開いたドレスのレースには、銀色の花の刺繍が施されている。
胸元には、親指の爪ほどの大きさのダイヤモンドが輝いていた。
アダブランカ王国に来た時に、クノリスから大量に送られた贈り物の中に入っていた物の一つだった。
食事もするので、コルセットはあまりきつく締めないようにお願いしたおかげで、お腹周りはあまり苦しくない。
「準備はどうだ?」
正装に着替えてきたクノリスが、ノックをして部屋の中に入って来た。
どうやら、リーリエが準備するのを待ちきれないようだった。
「後少しで完成いたしますので、もう少々お待ちください」
ミーナが、リーリエの結った髪の毛に、シルバーの髪飾りを飾りながらクノリスに言った。
「見違えるほど美しいな、俺の妻になる女性は」
クノリスが嬉々とした表情で、リーリエのことを見た。
当のリーリエは自分の姿よりも、暗記した貴族たちの名前を忘れないように必死だった。
「で、彼女は何をブツブツと呟いているんだ?」
公爵をはじめ、子爵や伯爵の名前をブツブツと呟いているリーリエを見て、クノリスがミーナに尋ねた。
「本日いらっしゃる貴族の方々の名前だと思われます」
「全部覚えたのか?」
「昨夜確認した時には、完璧でございました」
驚いているクノリスに、ミーナは頷いた。
「彼女のためのお茶会や舞踏会だというのに……」
「どうやら、リーリエ様はあまりそう思われていらっしゃらない様子で、結婚の反対派や前王派閥のことを非常に気にしていらっしゃる様子でした」
ミーナが小さな声でクノリスに囁いた。
「……」
クノリスはしばらくじっとリーリエを眺めていたが、ブツブツ呟いている彼女の肩をトントンと叩いた。
呪文化とした人々の名前を唱えることに集中していたリーリエは、クノリスが背後に突然現れたので驚いた。
「来ていたのですか?」
「結構前からな」
「全く気が付きませんでした」
「だろうな。呪文を唱えていたのかと思ったよ。今日は、俺も一緒に同行するので誰かの名前を忘れたとしても問題はない」
まるでリーリエの頭を呼んだかのような発言に、リーリエは驚いた。
しかし、横でミーナが会釈を浮かべていたので、リーリエが色々と心配していたことをクノリスに伝えたのだろう。
「ありがとうございます。助かります。ですが、お茶会の何時間かは、男性方は狩猟に行くのでしょう?」
「ああ、茶ばかり飲んでいられないからな」
「その間に、失礼があっては困りますから」
「なるほど。それは頼もしい。では、一緒にいることができる数時間はぜひご一緒させていただき、サポートさせていただこう」
クノリスは楽しそうな表情を浮かべて、自分の腕を差し出した。
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