二の八 潜入策の提示 〜蜷局〜

 高圧洗浄機の存在を思い出したものの、使用イメージは浮かばなかった。


 我が家にある黄色い高圧洗浄機ケルヒョー(仮)のノズルは、細長い棒に紡錘形の先端が付いて、全長五十センチほどだ。

 直径八センチの汚水枡口に入るかも怪しい代物で、口から数センチ下にある横穴など試すまでもない。


 なら、水道業者は高圧洗浄機をどのように使っているのか。


 困った時は、グーグル先生。


『高圧洗浄機 排水管』とブラウザに打ち込み、タンッ、軽やかにエンターキーを鳴らした。


 すぐに結果が表示される。


『ケルヒョー(仮)パイプクリーニングホース』。


 グルグルに巻かれた黒く細いホースの写真と、メーカー、価格、販売店舗が並ぶ。広告だ。


 高圧洗浄機用の、ホース。

 が販売されている、と。


 謎解きはディナーを待つまでもなかった。

 解説サイトなどではなく、広告だけで解けてしまったのだ。


 通販サイトへ移動して詳細を確認する。

 お値段は三千円ほどで、評価は。いや、これはサードパーティ品か。

 高評価に混じって『接続に不安あり、付属の防水テープで巻けば使える』との記述がある。高評価のいくらかはサクラかもしれない。


 改めて純正品を検索すると、長さ七・五メートルと十五メートルの二種類のホースがヒットした。


 床下排水管は、コンクリート基礎上に横たわる部分、言い換えると、汚水枡の横穴から一階床へ立ち上がる地点までの長さが約四メートル。

 この部分の汚れが酷く、音の原因となる詰まりがあると予想している。

 七・五メートルあれば十分だ。


 よく見ると、商品説明に『曲がり角九十度以内二回まで』とある。

 第一汚水枡から二回目の曲がり角は、九十度に折れつつ一階床に立ち上がっていく部分で、二回までは曲がれると表示があるものの、実際は難しそうだ。ただ、必要ならばシンク側から洗浄すれば良いだろう。


 値段は四千五百円弱と先ほどの商品の約一・五倍。価格より信頼を取る。


 これだな。

 

 ホースの目星が付いたところで、気に掛かることがあった。


 ここ数年、少なくとも三年、長ければ五年ほど動かしていない高圧洗浄機ケルヒョー(仮)は動くのだろうか。発注前に動作確認をしなくては。


 物置の扉を開けた。

 日用品の買い置きや配送段ボールなど、扉のギリギリ手前までモノが詰まっている。手前のモノから順番に廊下に出し、目的の黄色い箱を取り出した後、またモノを仕舞う。狭いとはいえ、これだけで一仕事だ。

 

 扉を閉めて、黄色い箱に視線をやった。

 

 

 

 黄色い箱が、見上げる。

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