二の九 寛容なる水流 〜試射〜

 実物を扱うのは初めてだ。


 我が家の高圧洗浄機ケルヒョー(仮)は、通販サイトタカダ(仮)特別モデルで、ノズル四種類が同梱されている。

 かつて使われていた時代に装着されていた紡錘形の先端を持つノズルのほかに、ブラシ付きノズル、液体を入れるタンクの付いたノズル、書道筆の先を切ったような形のノズルがあった。

 特にタンク付きのノズルなどは使用方法に興味が湧くが、ひとまず置いておく。


 取説を読みながら、本体に水道水導入ホースとトリガーガンを取り付ける。

 水道水導入ホースは、裏庭の園芸ホースのノズルを外したジョイントで簡単装着。

 トリガーガンの高圧ホースは、太めのパッキンが押し込むのを邪魔するが、水か洗剤を付ければ良いとの指示に従えば労せず接続できた。


 トリガーガンは名前の通り銃の形で、なるほど全人類共通である例の心に訴えるものがある。特定の年代の名を冠した、格好いいものに夢中になる、甘露で罪深く、時を経れば痛々しく感じる心に。


 ガンの先端にノズルを装着する。

 ぐっと押し込んで九十度捻ると長方形のパーツで固定される。サードパーティ製品でも似た機構は作れるとは思うが、精度が悪ければこの接続部分から水が噴出し、ノズルの水圧が上がらないなどの不具合に繋がる。


 精度にお金を払うということを、百均で買った一切挟めない毛抜きで覚えた。相対する二つの面が合っておらず、ゆえに何一つ挟めない毛抜き。形だけ寄せてもダメなのだ。


 家の側面にある屋外コンセントに電源を接続する。

 電源コードも高圧ホースもそれぞれ五メートル以上はあり、屋外コンセントの近くにある汚水枡の洗浄にはむしろ邪魔になる。少し離して設置した方がいいだろう。


 ずるずるとホースを引き摺りつつ本体をひっさげ、家の表に移動する。

 コンクリートの駐車スペースを洗浄してみるとしよう。


 高圧洗浄機は高圧で水を噴出させて、コンクリの隙間に入り込んだ塵や砂を弾き飛ばす。大きめの石礫が残っていれば、それらも結構な勢いで飛ばしてしまう。

 今回も先にほうきで清掃してある。壁などへの泥飛びを防ぐ養生シートは割愛した。


 本体を置き、電源を回す。

 トリガーガンを持ち、軽く握る。


 ドゥルン。


 水が噴出する。

 大きな輪がコンクリに当たって飛沫を上げる。しかしコンクリは黒っぽい灰色のまま。


 ガンを握ったまま、コンクリにノズルを近づける。

 円形に広がった水の接触面積が小さくなる。ドゥーッと本体と水流が鳴り、コンクリの色味が白く変わる。細かい砂粒が水に混じって流れていく。


 ノズルから出る円形の水を、くるくると円を描きながら移動させれば、灰色の駐車スペースにくるくる模様が浮かび上がる。

 楽しい。

 心まで、洗われていく。

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