第14話 襲撃01

 太陽が傾き始めるとアリオは静かに窓辺を見つめた。陽の光を浴びて海が黄金色に輝いている。アリオにとってレイラとの時間は穏やかに過ぎていった。



──『友人とは気づいたら隣にいるもの』……。



 アリオは再び姉アリアの言葉を思い出した。友人と同じ家で過ごすなんて、今まで想像すらしたことがない。レイラはアリオを『友達』と呼んでくれた。その事実

が嬉しかった。


 アリオがもの思いに沈んでいるとリビングに繋がる扉が開き、奥の部屋からレイラが出てきた。レイラは作曲していたらしく、縮こまった身体を伸ばしながら声をかけてくる。


「アリオ、今日の夕食はどうする? 外食でもしてみる?」


 レイラは壁掛け時計を見上げた。 


「ヴィネアの街中へ行ってみようよ。音楽祭は終わったけど、観光できる場所はたくさんあるよ……」

「ねえ、レイラ」


 アリオはレイラの好意に感謝しつつ、魚が入っていた皮袋を見つめた。


「よかったのですか?」

「ん? 何が?」

「さっきの少年、レイラのお友達なのではなくて?」

「ああ、ネイトのことか……」

「思い詰めているような顔をしていたわ。レイラに何かお話しがあったのではないのかしら……」

「……」


 アリオが尋ねるとレイラは少しだけ伏し目がちになった。そして、何かを言いかけたとき、家の外で車が急停車する音が聞こえた。


「!?」


 レイラが窓から確認すると黒塗りの車が数台、停まっている。物々しい雰囲気のなか、車から降りてくる大柄の男を見てレイラは目を見張った。


──ダヴィデ?? なんでここに……。


 考える間もなく、家の呼び鈴がけたたましく鳴らされた。


「レイラさん、いますか!? ここを開けてください!!」

 

 扉越しに黒服が呼びかけてくる。焦った声色を聞いてレイラは嫌な予感を覚えた。


「今、開けるよ」


 レイラが扉を開けると数人の黒服が家のなかを覗きこんでくる。


「レイラさん、クラッチ兄弟をった女と娼館から逃げ出したガキがいるって聞きました……家のなかを確認してもいいですか?」

「……」


 レイラは答えるかわりに鋭い視線を向ける。黒服たちはレイラの刺すような視線にたじろぎ、後ずさった。すると、ダヴィデが肩をすくめながら近づいてくる。


「レイラ、どんな事情があったのかは聞かないわ。おとなしく女とガキを渡してちょうだい。いるのはわかっているのよ」


 ダヴィデはサングラスを外し、腰に差したトンファーを抜く。口調は穏やかだが有無を言わせない圧力があった。


──アリオがあのクラッチ兄弟を殺した……。


 アリオに残虐非道なクラッチ兄弟を殺せるとはとても思えない。しかし、状況を考えると悪い予感は的中していた。


 クラッチ兄弟を殺したなら、アリオは『狂信者たちの聖夜ギル・デ・バレンタイン』の敵になる。家族ファミリーの報復はギャングにとって絶対的なおきて。『家族ファミリー友人アリオか』……レイラはいまだかつてない選択を迫られた。



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