第14話 襲撃02

「アリオが『狂信者たちの聖夜ギル・デ・バレンタイン』の敵なら、わたしが決着をつける」



 レイラはダヴィデを見上げた。目つきは鋭く、瞳の奥では闇の世界で生き抜いてきた覚悟が揺らめいている。ダヴィデは抜き放ったトンファーで自分の肩をポンポンと叩きながらレイラを見下ろした。



「ソイツはアリオって言うのね。で? どうやって決着をつけるつもり? アナタが始末するの?」

「……」



 レイラは小さく首を振った。



「アリオにはこの街を出て行ってもらう。そしてもう二度と戻って来ないようにする。それで終わりよ」 

「は?」



 ダヴィデは太い眉を顰めた。こめかみには血管が浮き出ている。



「何の寝言を言ってるの!! こっちは家族ファミリーが殺されてるのよ!! キッチリらなきゃダメじゃない!! じゃないと示しがつかないわ。他の組織に舐められるのがオチよ!!」

「……だから?」



 レイラはダヴィデの剣幕を受け流すように冷たく聞き流す。予想外のできごとにダヴィデの語気はさらに強まった。



「『だから?』ってどういう意味よ!! レイラ、あなたいったいどうしちゃったの!? ピケとピトーがられてんのに何も思わないの?? おかしいわよ!!」



 納得がいかないダヴィデは唾を飛ばして捲し立てる。それでも、レイラの冷淡な口調はかわらなかった。



「あの二人は女や子供を喜んで襲うクズ。家族だと思ったことなんて一度もない」

「なんですってぇ……?」



 ダヴィデの目の色がかわり、トンファーをレイラの鼻の先へ突きつける。声も低く、凄味のあるものにかわっていた。 



「もう一度言ってみなさいよ」

「……何度でも言うわ。クラッチ兄弟はクズ中のクズ。あの二人が生きている限り『狂信者たちの聖夜ギル・デ・バレンタイン』の名声を貶めることはあっても高めることはない」

「……」

「ドン・ニコラの名前を汚す前に殺してくれた。アリオがクラッチ兄弟を殺したのなら、感謝するべきよ」

「……」



 レイラが言うことには一理ある。それに『ドン・ニコラ』の名前を出されるとダヴィデも黙るしかない。レイラはダヴィデたち一人一人を見ながら続けた。



「掟は掟。破る者は罰せられる。アリオを逃がす罪はこのレイラ・モーガンが引き受けるわ。だから、引き下がって」



 レイラの覚悟は本物だった。ダヴィデや黒服たちは戸惑い、お互いの顔を見合わせる。これ以上は『冷たい死神メル・デロサ』を怒らせることになりかねなかった。すると……。



「レイラ、よけいな仲裁は無用よ。この方たちはわたしにご用がおありなんでしょう?」



 突然、家の奥から声がしたかと思うとアリオが玄関先へ現れた。真っ赤な宮廷ドレスが揺れ、悠然とレイラやダヴィデの前を通り過ぎる。二人が呆気にとられていると、アリオは停められた車や立ち尽くす黒服たちのもとへ向かった。



「「「こ、こいつだ!!」」」



 黒服たちはアリオに面食らっていたが、我に返ると一斉に銃をかまえる。アリオは殺気立つ輪の中心へ堂々と進み、ゆっくり周囲を見回した。



「警告するわ。今すぐ銃口を下げるなら、このわたしに向けた敵意を許してさしあげます。レイラに免じてね……」



 アリオは振り向いてレイラへ微笑みかける。榛色はしばみいろの瞳は冷たく輝き、赤い口元には不敵な笑みを湛えていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る