第13話 贈り物03

「ネイト、手柄よ!! これで『狂信者たちの聖夜ギル・デ・バレンタイン』の面子も保てるわ!! みんな、裏に車を回してちょうだい!!」

「「「わかりました!!」」」


 ネイトがアリオの居場所をダヴィデに教えるとクラブ『ネオ・カサブラン』は急に騒がしくなった。VIPルームにいた黒服たちは慌てて駆けだしてゆく。ダヴィデがソファーから立ち上がると黒服の一人が足を止めて首を傾げた。


「ダヴィデさん、どうしてレイラさんが女と一緒にいるんですかね……もしかして、俺たちを裏切っているんじゃ……」


 黒服はネイトを見下ろした。その視線は『汚い密告者ネズミ』とでも言いたげであり、さげすんでいる。ネイトが視線を避けるように俯くとダヴィデは静かに首を振った。


「めったなことを言うもんじゃないわ。レイラは『狂信者たちの聖夜ギル・デ・バレンタイン』の『冷たい死神メル・デロサ』、家族よ。きっと何か考えがあるのよ……さっさと行きなさい」

「わかりました……」


 黒服は一礼して去ってゆく。だが、ダヴィデも似たようなことを考えていた。


──もし、レイラが裏切っていたら面倒ね……。


 ダヴィデは呆然と立ち尽くしているネイトを見た。


「ネイト、あんたも来るのよ」

「え? 俺もですか?」


 ネイトが目を丸くしてダヴィデを見上げる。ダヴィデは口元を歪めてニヤリと笑った。


「当然でしょ。あんたはレイラの弟分。もしレイラが裏切っていたら、あんたが自分の手で始末するのよ」

「そんな、俺は……」

「『狂信者たちの聖夜ギル・デ・バレンタイン』に入りたいんじゃないの? もしかして、わたしに嘘を言ったのかしら?」


 ネイトは心のどこかで『自分は行かなくてもすむ』、『レイラが傷つくことはない』と甘く考えていた。ダヴィデはそんなネイトの心を見透かしている。懐から拳銃を取り出してネイトに渡した。


「ほら、これを使いなさい。大きくてセクシーでしょ?」

「……」


 ネイトは初めて拳銃を持った。マガジン式の自動拳銃はとても冷たくて重い。


「お、俺には使えません……」


 ネイトは黒光りする銃身を見つめながら生唾を呑みこんだ。今さらながら手が震え、銃を落としそうになってしまう。震え声を聞いたダヴィデは巨体をグッと折り曲げてネイトの顔を覗きこんできた。


「あ? 使えねぇだと? 面白い冗談ねぇ……」


 ダヴィデは笑顔のままだったが、目は笑っていない。黒目は無感情にジィっとネイトを観察している。ネイトは背筋に悪寒が走り、無言で銃を腰の後ろにしまいこんだ。


「そう。それでいいのよ」


 ダヴィデは満足そうに頷いてネイトの頭をポンポンとなでる。


「それじゃあ、行こうかしら。女とガキを血祭りにあげるのよ!!」

「「「おう!!!!」」」


 ダヴィデがかけ声を上げると黒服たちは自動小銃やナイフをかかげる。ダヴィデたちは次々と黒塗りの車に乗りこんでレイラの家を目指した。

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