第13話 贈り物02
太陽は相変わらず強く照りつけている。ネイトは額に汗を浮かべながら石畳の道を歩いた。曲がりくねった道の先にはレイラの家がある。
──別に、俺が会いたいわけじゃねぇ。リッキーの仕事だから仕方なく会いに行くんだ……。
ネイトは何度も自分に言い聞かせる。そうでもしないと、心が挫けてしまいそうだった。ネイトの脳裏には最後に会ったときのレイラの姿がよぎる。
『さっさと消えて。目障りなの』
レイラはネイトを見下すように冷たい表情で言い放った。その顔が今でも忘れられない。ネイトはいつも『レイラに認められたい』と願っていた。だからこそ、『
──レイラは俺たちを捨てたんだ。
やり場のない怒りがまだネイトのなかで
「はーい!!」
ログハウスの奥から聞きなれた声がする。扉が開くと金色のポニーテールを揺らめかせてレイラが立っていた。
「ネイト……」
レイラは少し驚いた様子だったが、表情に険しさはない。昔のままのレイラだった。
「ネイト、どうしたの?」
「……これ」
レイラの何事もなかったような態度にネイトはホッと胸をなでおろす。それでも、魚の入った皮袋をグイッとレイラの目の前へ差し出した。
「リッキーが持っていけって……」
「……ありがとう」
ネイトのぶっきらぼうな態度を見たレイラは口元に優しげな笑みを浮かべる。「ありがとう」と言いながら皮袋を受けとったとき、レイラの背中からセーレの明るい声が聞こえてきた。
「レイラお姉さま、フライパンをお借りしてもいいですか? ティータイムにはボクがパンケーキを……」
セーレはレイラの隣までやってくると足をとめる。セーレと目が会ったネイトは驚きを隠せない様子だった。
──コイツは誰だ?
ネイトは執事服の美少年を見て戸惑った。戸惑いがそのまま口調に表れる。
「……お前、誰だよ」
「ボク? ボクはセーレ。レイラお姉さまのお友達だよ」
──
ネイトが眉を顰めていると今度はセーレが尋ねてくる。
「君は?」
「……」
ネイトは答えなかった。それは、セーレが『お友達だよ』と答えたとき、レイラの顔が一瞬だけ気まずそうに曇ったからだった。ネイトにはその顔が『ネイトを哀れんでいる』ように見えた。
──俺たちを捨てたのに、もう新しい
ネイトはセーレを暗い眼差しで睨みつける。セーレは怯えた様子でレイラの影に隠れた。
「ボ、ボク何か悪いことしたかな……名前を聞いただけだよ……」
レイラは困り顔をネイトへ向けた。
「ほら、ネイトもちゃんと挨拶して」
「……」
以前のネイトなら元気よくセーレと挨拶をかわしていた。しかし、今となっては心のなかで渦巻く感情がうまく処理できない。慕っていたレイラを新参者に取られた……そう思えて仕方がなかった。やがて……。
「セーレ、レイラはお客さまの相手をしているのです。困らせてはいけないわ」
凛とした口調とともにアリオも奥から姿をみせる。アリオはセーレの隣までくるとネイトへ向かって軽く頭を下げてみせた。
──……!? こ、コイツは……。
アリオの顔を見たとたんネイトの身体は固まった。アリオこそダヴィデが配った手配写真の女だった。思わぬところで標的を見つけ、ネイトの心はさらに混乱してゆく。
──な、なんでコイツがレイラのところに……。
動揺は増すばかりでネイトの額には玉の汗が幾つも浮かび上がる。すると、レイラが心配して声をかけてきた。
「ネイト、大丈夫?? さっきから様子が変だよ」
「そ、そんなことねーよ!! ……じゃ、じゃあ俺はもう行くから!!」
ネイトは捲し立てるように言うと、レイラたちへ背を向けて駆けだした。
× × ×
──なんで、なんで、なんで……。
ネイトは石畳の上を転がるようにして駆けた。
──なんで、アイツがレイラのところにいるんだよ……。
どれだけ考えてもわからない。そして、逃げるようにして走り去る自分が惨めに思えて仕方がなかった。しばらく走るとネイトはぴたりと足をとめる。
──俺、逃げてばっかりだ……。
ネイトは情けなかった。心のどこかでレイラに『ネイト、あのときはごめんね』と謝ってもらうことを期待していた……そんな自分が許せない。そして何より、新しい友達を得て、平然と暮らしているレイラが許せなかった。
──俺は何を期待してたんだ? レイラは俺たちを捨てたんだぞ……。
ネイトはレイラとの絆を断ち切るようにギリッと奥歯を噛んで前を見すえた。
──レイラは俺たち貧民街を裏切ったんだ!!!!
まだ少年のネイトにレイラの心情を思いやることはできなかった。ネイトは暗い決意を胸に再び歩き始める。その足はヴィネアを震え上がらせるギャング、『
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