第11話 友達02

──わたしに友人ができるなんて……。


 レイラにとってアリオは暗闇に差しこむ一筋の光そのものだった。暗黒街で生きる刹那的な日々が少しだけ穏やかなものへと変わる。


──アリオと出会えてよかった……。


 そう思うだけで世界が明るく華やいだように感じる。音楽祭の最終日、レイラのDJパフォーマンスは心情を表すかのように華やかで情熱的なものとなった。


「みんな、ありがとう!!」


 パフォーマンスを終えると万雷の拍手が沸き起こる。レイラは満足げに微笑んで最後の舞台を下りた。すると、舞台のそでに珍しくダヴィデが立っている。いつものようにピンク色のスーツを着て、大きめのサングラスをかけていた。


「レイラちゃ~ん。お疲れさまぁ~♪」


 ダヴィデは拍手をしながら妙に間延びした声で話しかけてくる。


「ねぇねぇ、クラッチ兄弟がヤられたわ」

「えっ!?」

「ニコラがね、『レイラのプレイが終わるまで知らせるな』って言うから黙ってたのよ」

「……ビッグシックス? カルナン連合? それとも、グランツォ一家ファミリーの生き残り?」


 レイラの目つきが鋭くなる。クラッチ兄弟は残虐で陰湿。あまり好きになれなかったが、『狂信者たちの聖夜ギル・デ・バレンタイン』の家族ファミリーだった。


「いいえ。どちらでもないわ……」


 ダヴィデはサングラスを外して小さくため息をついた。


「『死者の記憶マルト・メモリア』を見た限りだと、ヤったのは真っ赤なドレスを着た貴族の小娘。それに、男娼の少年もグルね。二人ともヴィネアの人間じゃないわ……」


 ダヴィデが知っていることを伝えるとレイラの表情が曇る。


──真っ赤なドレスを着た貴族と少年……。


 レイラはアリオとセーレの顔を思い浮かべた。しかし、


──そんなわけない。あの二人にクラッチ兄弟を殺せるはずがない。


 と、すぐに疑念をねじ伏せる。アリオとセーレは一見すると可憐な貴族主従。殺伐とした暗黒街とは無縁に思えた。


──でも……。


 戦闘の熟達者であるレイラはアリオとセーレからただならぬ雰囲気を感じていた。それに、二人はヴィネアの外からやってきた。状況を考えてみると、なんとも言えない不安がレイラの脳裏にこびりつく。


「ねえ、レイラ? どうしたの?」


 考えこむレイラを見てダヴィデはが声をかける。レイラは慌てて首を振った。


「え!? な、なんでもない。最近、立てこんでいたから……」

「うふふ。レイラは疲れているのよ。無理もないわ……音楽祭で忙しいのにターニャまで始末したのですもの」


 ダヴィデはレイラをいたわるように微笑んだ。そして、サングラスをかけ直してレイラの肩を叩く。


「クラッチ兄弟の件はわたしたちに任せてちょうだい。兵隊たちに探させているから、いずれ見つかるわ。レイラは休んでて」

「……うん。ありがとう、ダヴィデ」

「いいのよ。あなたは『狂信者たちの聖夜ギル・デ・バレンタイン』の『冷たい死神メルデ・ロサ』。きたるべき戦争のために、ゆっくり休んで英気えいきを養ってちょうだい♪」

「……ええ」


 家族ファミリーの血が流れたなら、必ず報復しなければならない。それは暗黒街における絶対の掟だった。


──もし、クラッチ兄弟を殺したのがアリオだったら……。


 レイラは一抹の不安を抱えながらダヴィデの背中を見送った。

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