第5章 それぞれの絆
第11話 友達01
「レイラお姉さま、おっはよー♪」
朝陽の差しこむリビングにセーレの明るい声が響く。レイラはドアノブに手をかけたまま目を見張った。テーブルには焼きたてのパンケーキが置かれ、甘い香りが漂ってくる。
「どうしたの? これ……」
「ボクが作ったんだよ。レシピは秘密♪」
レイラが戸惑っているとアリオもキッチンから顔を出した。
「ごめんなさい。無礼とは思ったのですけれど、セーレがどうしてもと言うので……勝手に台所をお借りしたわ」
「ちょっとアリオお嬢さま、ボクのせいなのですか!?」
「だって、そうじゃない」
「むぅ……」
「セーレ、朝から膨れないでくれます?」
セーレが頬を膨らませてもアリオはつれない態度でティーセットを用意する。二人のやり取りは貴族の主従というよりも親しい友人同士だった。思わず、レイラは口元をクスクスとほころばせる。
「二人ともありがとう。すごく嬉しいよ!!」
いつもは一人で寂しかった朝食も今日は華やいで見える。レイラは上機嫌で席についた。やがて、食事が始まると三人は古い友人でもあるかのように語り合う。自然と話題はアリオとセーレの『旅の目的』になった。
「じゃあ、アリオは双子のお姉さんを探しているの?」
「ええ、そうなるわ」
アリオは短く答えてティーカップを口へ運ぶ。すると、その横でセーレが続きを説明する。
「アリオお嬢さまの姉君、アリアお嬢さまは高名な宮廷魔術師でした。でも、とある事情からお姿をお隠しになったのです」
「事情?」
「……それは」
セーレはチラリとアリオへ視線を送る。それは「話してもいいのか?」と許可を求めている様子だった。アリオはティーカップを置いてセーレのかわりに語り始めた。
「わたしの故郷、フェルヘイム帝国では宮廷魔術師が国の祭祀を司るの。だから国家機密に触れる機会も多くなる。アリアお姉さまは『見てはいけないもの、知ってはいけないこと』に触れてしまったのよ」
「……そ、そうなの!?」
姉の失踪に国家が関わっている……すぐには信じられないような話だが、レイラは何の疑いも抱かなかった。それは、アリオの
ただ、アリオの口ぶりはどこか無感情で、『姉はもういない』とでも言っているようだった。その場を沈黙が支配するとセーレが少し慌てた様子でつけ加える。
「きっと、アリアお嬢さまはボクやアリオお嬢さまに害が及ぶのを心配して姿をお隠しになったのです。そうですよね? アリオお嬢さま……?」
セーレは肩を竦めて恐る恐るアリオの顔を覗きこむ。すると、アリオは苦笑しながら「そうね」と答えて窓辺へ視線を移した。
「お姉さまはわたしたちを想い、気づかってくださった。だから、今度はわたしたちがお姉さまを見つけだす。そのためならどんな
アリオの口ぶりは大仰だが、それだけ『アリアが大切な存在だ』ということが伝わってくる。レイラはアリオとセーレの長い旅路に想いを馳せた。二人がアリアと再会できることを願わずにはいられない。
「大切な人と会えない辛さはわたしにもわかる……早く再会できるといいね」
「え……」
今度はアリオが驚く番だった。大抵の場合、アリアの話を聞いた相手は「大げさだ」と言って信じない。それが、レイラは話を聞くどころか親身になってくれている。
「わたしにできることがあるなら、何でも言って」
「……どうしてそこまで仰ってくださるのですか?」
「それはアリオが……と、友達だから……」
「友達……」
レイラがぎこちない口調で言うとアリオはキョトンとした表情になり、一瞬だけ言葉の意味を考えた。その顔を見てレイラが慌てふためく。
「べ、別に深い意味はないよ。友情を押しつけるつもりだってない……って、わたしは何を言ってるんだろ……」
照れくさいのかレイラは顔を真っ赤にしている。すると、アリオが椅子から立ち上がり、ドレスのスカートを両手でつまみ、片足を引いた。これはフェルヘイム帝国式の儀礼だが、レイラは知る
「友達だと仰ってくださり、光栄ですわ。ありがとうレイラ……」
「そう畏まられると困るな……」
レイラはまだ照れている様子だった。すると、隣でセーレが勢いよく立ち上がる。
「ねえ、レイラ。ボクは!? ボクもお友達ですか??」
「も、もちろん!! セーレもお友達だよ!!」
「やったー!! アリオお嬢さま、ボクもレイラお姉さまのお友達です♪」
セーレはパンケーキを刺したフォークを手に持った。そして、八重歯を見せながらニコニコと上機嫌でかかげる。
「それでは、友情の証にパンケーキを食べましょう!!」
「セーレ、はしたないですよ。ちゃんと座りなさい」
セーレを
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