幕間
雲一つない快晴の下、相も変わらず賑やかな活気に満ちた【オルトリンデ王国】の女王であるフレインはこの日、いつのなく落ち着かない様子で玉座の間をうろうろとしていた。
理由を知らぬ者がこの現場を目の当たりにすれば、いったい何事かと不安を抱くやもしれぬが真相を知るラニアとキャロは至って落ち着いた様子で、自らが仕える王の動向をただただ黙したまま見守っていた。
かくいう彼女達も、フレインと同様にそわそわと酷く落ち着かない様子だ。
無理もない。なにせもうすぐ自分達が愛する男が遠路はるばるこの城にやってくるのだから。
依然うろうろと、同じ場所を何度も行き交いするフレインがラニアに尋ねる。
「ラニアよ、まだあの者は来ぬのか?」
「お気持ちはわかりますが、どうか落ち着いてくださいフレイン様。国王となられたのに忙しなくしていると、幻滅されるかもしれません」
「あの者はとても優しく寛大な男だ! 多少ぐらいならば許容するだけの器を持っているのは貴殿も知っているだろうラニア」
「そうでしたね。わたくしの失言でした、どうかお許しください」
「よい、我もいちいちその程度のことで目くじらを立てたりはせん。それにラニアにキャロ、そして迎えに出ているクアルドを含め我らはあの者と夫婦となるのだ。夫婦ならば共に理解し、支え合わねばな」
「そうですねフレイン様」
「あ~早くきてくれないかしら」
三人の脳裏には、各々の想い人が強く描かれる。
片や国王で、片や異国の鍛冶師――身分も住む世界もまるで異なる両者が結ばれるなど、これはまずありえない光景だ。
当然フレインを慕う民草も、今回の結婚に強い反発が容易に想像される。
だが、そうならない理由が彼らの想い人にはあった。
「はぁ……景信よ。我が愛しき夫よ、早く貴殿に逢いたい……」
フレインの意識は、3年前へと
時期国王の座を狙った下兄にして次男バンディッシュの叛乱、その凶刃に巻き込まれた父と長男を失った。
身内を失い、しかし国を取り戻す使命がある自分には立ち上がらねばならない責務があった。
内乱がなければ、きっともっと違う生活を送っていたのかもしれない……フレインはふと、考える。もしもあの内乱がなかったら自分は今頃どんな生活を送っていたのだろう。
女王ではなく、他国との友好関係を築くための人柱……もとい、政略結婚をさせられていた可能性だってなきにしもあらず。
そう考えれば、内乱があってよかったともフレインは思う。
もちろんこの考えは不謹慎極まりない。あの内乱では数多くの命が敵味方、双方関係なく失われたのだから。大地は血で赤く染まり、無数の骸を格好の餌と空を覆うほどの死鳥が飛び交う光景は地獄そのもの……あれは二度と生み出してはならない。
それでも内乱があったからこそ、景信という素敵な異性と出逢えたのも事実。
これもきっと、神の思し召しであるに違いあるまい。
ならば夫婦としてここ【オルトリンデ王国】をより良い国へとしていくことこそ、神への唯一の恩返しである。
ただあの男――景信は如何せん朴念仁すぎるのが欠点だ。
羞恥心をかなぐり捨ててまでした渾身の告白をあっさりと断ったばかりか、その真意についてまるでわかっていなかった。
「だが、次は絶対に逃がさない……」
内乱後も常に景信の動向には見張りをつけていた。
密偵から逐一送られる情報を元に、いつ自分以外の女を伴侶とするなどど血迷った愚行を起こさないか、ヒヤヒヤとして終始落ち着かなかった。
そんな日々も、今回の招待で終わる――終わらせる。
「――、伝令! クアルド様と景信様がお見えになりました!」
「ようやく来たか我が夫よ! ラニア、キャロ、今すぐ迎えにいくぞ」
「はーい」
「承知しました」
ラニアとキャロを引き連れて、慌ただしく玉座の間を飛び出す。
廊下をドタバタと走るフレインのその横顔は、まるで穢れを知らない純粋無垢な童のように、生き生きとしていた。
きらりきらめき恋は刃のように~どこかポンコツだけどヤンデレ気質な女王様達からの愛が重い~ 龍威ユウ @yaibatosaya7895123
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