第41話 「サムの家族だから気になるのですね?」




 セドリックさんから魔法を教えてもらった一番最初、詠唱を頭の中で唱えるっていうのを指示された。

 これはエメラルドに付与魔法を教えてもらった時に習得できているので、セドリックさんは「さすが先代エメラルド様」と呟いていた。

 セドリックさんから、回復魔法の講習を受けた感じは、前回、生活魔法のクリーニングとかを教えてもらったけれど、系統としてはそっちに近い。

 浄化とか清潔に関連してる。


「でも魔法って面白いですね、セドリックさん」

「はい。興味を持っていただいて嬉しいです。魔法が使えるなら、今後、中層攻略後、最深層踏破を目指すなら、是非覚えてほしいのが回復魔法ですから」


 なぜならば―――中層攻略移行は、魔女の権限により、魔女と一緒にパーティーを組むことができるから。

 パーティーメンバーの回復は必須。


「よかった。これでアンディがダンジョンで怪我をしても回復できるのね。アンディは魔法が使えないそうなの」


 あたしがそういうと、アレクとセドリックさんは顔を見合わせる。


「……珍しくない?」

「でも。エメさんの言うように、わたし、アノ人の魔力は感じとれません」


 アレクもセドリックさんも、そんなヤツいるのか的な表情になってる。

 でも、でも、アンディは強いのよ。

 それに無茶したら、あたしが回復させることができるのはいいことよね? ね?


「身体強化系の魔法も使ってないと思う」


 あたしもダンジョンに潜って、魔力感知を覚えたけど、確かにアンディからの魔力は感じ取れない。

 違和感を持つけれど。でも、可愛いので許す。


「可愛いは正義だからいいの」


 あたしがグっと握りこぶしを作ってそう呟く。


「頼りになってカッコイイとか言われたいです」


 そんな言葉が背後から聞こえて、慌ててあたしは後ろを振り向く。

 オルセンさんと対峙戦の訓練してたのね?

 アンディの隣に立っているオルセンさんがなんかちょっと疲れた感じ。

 オルセンさんお疲れモードにさせるほど、訓練してたの?




 ダンジョン十階層を超えたからなのか、一週間の地上生活。

 訓練とかももちろん、ダンジョンにおいての予測や検証も行う時間も取れて、実質的なお休みも前回と違い二日ありました。

 その二日間、あたしはサムの妹ポリーの消息を探そうと思って街へいく支度をしていた。

 サムはモンスターになってしまったけれど、たった一人の家族なんだから、気にしてるはずだし。

 エメラルドの家から街へと行こうとすると、ブルヘルムさんから待ったがかかった。


「え? ダメですか?」

「単独がダメなんじゃ!」


 つまりあたし一人で行くのを了承できない。前回のお休みに街へ行った時と同様に、何人かを護衛にしろと言う。

 そうは言っても。

 みんな忙しそうだし。各自いろいろあるのよ……自分のエリアのダンジョンでの攻略を中止してまでこのエメラルド地区に来てもらってるから。気が引けるっていうか。


「エメラルド様、一緒に行きましょう。サムの家族だから気になるのですね?」


 アンディ……わかってくれる。


「じゃあ、私も行きます。エメさん一人はダメです!」

 アレクがはいはいと手を挙げる。


「子供だけでは心配だから俺も行こう」


 オルセンさんも、忙しいのに。申し訳ないな。

 オパール・ダンジョンを攻略してるトップランカーだから、所属してるクランやパーティーからいろいろ連絡とかきてるんだよね。

 現地に戻らないで、ダンジョンカード。あたしの持ってるのと同じやつで、アダマント様から渡されている最新式のやつで連絡のやりとりをしてるらしいけれど。

 現地にいる同僚の方々は不安だろうな。


「大丈夫です。エメラルド様は僕がお守りします」

「アンディが強いのはわかるが、お前さんは、エメラルド様がなじられたらその場で周囲の人間を無差別に処しそうでダメ」


 そこまでじゃないと思う。なんだかんだで、モンスターになったサムは見逃していたし。

 アンディは表情を変えないけれど、すごく不満気なのがわかる。


「アンディ、おいで」


 あたしはアンディに手を差し出すと、アンディは恭しく手を取ってくれた。

 わあ、やっぱり小さな紳士だなこの子!

 馬車に乗って、街まで行く間に、アレクが話すには、ルビィ様がポリーに関して調べてくれたらしい。

 ポリーは兄のサムと二人暮らしだったけれど、ゲイルのヤツに目を付けられて、心配になったサムがポリーの勤め先に匿うように願ったらしい。勤め先は服飾店。ポリーは腕のいいお針子さんなのだとか。


「その子に会うんですか?」


 オルセンさんの言葉に、あたしは窓の外の景色を見ながら、どうしようかと考えていた。

 最初は会うつもりだった。

 でも、お前の兄はモンスターになったとは言えないよね。


「どんな様子か、見たいだけなの。元気なら、またダンジョンに入った時、サムにポリーは元気だったと伝えられるし」

「わたしが客として、店に入って様子を見てきます」

「僕も行きます」


 アンディの言葉にアレクは唇を尖らせた。


「未来の魔女様が、護衛も付けずに街に出るのは、承服しかねます」

「お姫様だしね」


 オルセンさんも畳みかけるように言うと、アレクはさらに頬を膨らませた。

 あたしはそんなアレクのつるっとした頬を指でつついて笑った。

サムもこんな風に、ポリーとじゃれあったのだろうか。


「いや、やっぱり、あたしが行く」


彼女に会って、何を伝えたらいいかわからないし、兄のサムが今どうなっているかは……伝えられないけれど。

 ダンジョンでサムに会った時に、ポリーの今を伝える為に。

 





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