第39話「命の方が大事じゃないの? 命があるから、なんでも挑戦できる」



「エメラルド様が魔法付与した剣を持つ人って、ダンジョンに潜ったのはこのスケルトンになったヤツだけ?」

「少なくとも赤毛のベイルが引き連れていた団体の中では彼だけのようです。武器、防具に魔法付与は他にも店があるから、そっちの方が人気で……」


 サンドラのお供のメンツをみたけれど、その中に武器防具に付与魔法をつけたり、護符を販売した客は見なかったと思う。

 そもそもサンドラのお供としてダンジョンに一緒に潜ってきたら、多分マクラウド氏の子飼いの連中だ。

 マクラウド氏は宝石商以外にも、いくつか店を持って、ダンジョン攻略者ご用達の店も手広く支援していたから、そっちの護符屋、武器防具屋をひいきにしてるはずだ。

 それに――……あたしの付与魔法の価格設定。

 サムも稼ぎを貯めて依頼したと言うように、割と高めの設定だ。

 エメラルドから店を任せれられた形だったので、価格を落とすことはできなかった。

 エメラルドの代行として店に立つので、あたし自身の付与魔法はエメラルドにかなり鍛えられたけれど。

 過ぎてしまえばどうってことはないけれど、当時は泣いたわ。厳しくて。

 ただね、その高めの価格設定のおかげもあって、あたし自身は生活できた。

 そういうのを見越した価格の設定をエメラルドがしたに違いないって、今なら思う。

 だからお客さんはこのエリアの上位の攻略者とか、先代からのお得意様とかが多かった。

 占いは標準的な価格にしてたから、そっちはそっちでそこそこお客様がついてくれたけれど。


「あのお嬢ちゃんが、ダンジョンでどんなアンデットモンスターになるかはわからないけれど……エメはこのまま訓練を積んで、ひたすら強くなってほしい」


 ルビィ様の言葉にあたしは尋ねた。


「サンドラが――アンデッドモンスターになるのは、確定なんですね?」

「妄執って言ったけれど、あのお嬢さんは塊よ。アンタが自分の上にいるのが堪らないなんだろうね」


 なんであたし!?


「エメがダンジョンにいる間、アレクに頼んで、マクラウドやお嬢さん――サンドラ? についていろいろ調べてもらったのよ。かなり前から先代に弟子入りを頼んでいたらしいわ。あの子には大した魔力も持ってなかったから断った経緯があるって」


 そう言われると、確かに隠遁したエメラルドの家で、ちょくちょく顔を見ることもあったけれど。


「ただ気になるのは……あの娘が、エメラルドが付与したスタッフを手にしていたことなのよ。弟子入りを断わられたあの子を不憫に思った親が、当時スタッフに付与を願って、これで娘を諦めさせられるからと」

「それなのにマクラウドさんはサンドラがダンジョンに入るのを許可したの?」

「エメラルドが亡くなって、セントラル・エメラルドの実権を握りたくなったんでしょうね。親子そろって強欲だ」


「命の方が大事じゃないの? 命があるから、なんでも挑戦できる」


 あたしの言葉にルビィ様は苦笑した。


「あの親子はさらなる富と権力に命を張ったのよ」


 開いた口がふさがらない。

 なんだそれは。

 あれだけ裕福で、それだけじゃ足りないって?

 何を目指して、何を欲してるのよ。


「それを手にしたら、今度はオレの首でも狙ってくるかもな」


 アダマント様はいつものように、肩ひじを立てて頬杖をついて呟いた。

 そうかマクラウド氏の野望はつきないのか。

 迷宮の王にとってかわるとか、マジで頭に何か湧いてるのか。


「あの娘を嫁にもらってやればよかったのに。親がもろ手を挙げてダンジョン入りを止めただろうに」


 ルビィ様の言葉に、アダマント様は拗ねたように言う。


「いやだよ。オレも若ければそういうこともできたけれど、もうそういうのも飽きたし、好みじゃないから。前に痛い目も見たし」

「反省してるんだ」

「うん。反省してる」


 アダマント様はそう言って、ルビィ様じゃなくてアレクを見た。

 なんでアレクを見るのかな……。

 アレクはアダマント様の視線に気づいているのかいないのか、大人しくお茶を飲んでいて、あたしの視線に気が付くと、緑金の瞳であたしを見つめて、にっこりと笑った。




 一通り、ダンジョンで今後起きるだろうことの予測と、今後のスケジュールに話題が移り、あたしはさっそく魔法の習得と練習に移ることになった。


「じゃあ、回復魔法の講習からだね」


 セドリックさんがそう言う。実はあたしに魔法を教えるのは、今までパーティーを組んできた魔法使いよりも、教えるのが楽なんだって。

 魔女の後継が魔法を習得するスピードは一般の魔法使いと違うらしい。


「実はわたしもセドリックさんから魔法を教わったことあります」


 アレクがはいっと手をあげる。


「あったねえ。アレクはすぐに覚えてしまって、こっちは本当に習得できてるのか不安だったけれど……血筋かな」

「血筋?」

「あれ、アレクはまだエメラルド様にはお話してなかったのか……」

「する必要がなかったのでしませんでした。このこと話したら、エメさん、お話してくれなくなりそうだから、言わなかったの」

「はは」


 セドリックさんはアレクの赤い髪をよしよしと撫でる。


「エメラルド様はそんなこと気にしなさそうな方だから、大丈夫じゃない?」


 あたしが二人のやりとりをみて首を傾げてると、セドリックさんは言う。


「アレクはね、アダマント様の血縁なんだよ。お孫様だ。手元に置きたいのに、ルビィ様に阻まれてる。嬉しいんじゃないかな。アダマント様はアレクといる時間ができて」


 ――はいいいいい!?



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