第38話「いきなり一人増えたからって、十二?」



 ダンジョン初回アタック終了後よりも、疲労がなくて、それでもやっぱりすぐさまお風呂に入って寝て起きたらスッキリ。

 ダンジョンだといつモンスターが来るかわからないから緊張しっぱなしだったけれど、今回はアンディもサムもいてくれたから、ダンジョン内で仮眠もとれたし。筋肉痛だってそんなにひどくはなかった。

 朝食だって、アレクと一緒にアレクの分も作っちゃったもんね。

 二人で食べ終わったら、いつものように、隣の建物へ。

 いつもの会議室っぽい部屋に入ると、だいたいみんないたけれど、ルビィ様とアンディはいない……。


「無事だったか、元気そうだなエメラルド様」


 オルセンさんが声をかけてくれる。


「ダンジョンに慣れてきたのかもしれません。あとやっぱりアンディがいてくれたおかげです。それよりどうなりました? あたしがダンジョンに潜ったあと」

「髪型縦ロールのお嬢さんがダンジョンにお供を引き連れて入ったら、前回のベイルと同じだった」


 サンドラ……入ったのか。

 やっぱり上位モンスターが出現して、一階層に侵入してきた全員を殲滅したそうだ。

 セドリックさんやブルヘルムさんも実際、直接みたのは初めて――ベイルの時の画像も観ていたみたいだけど、魔素が濃くて、鮮明ではなかったらしい。ブルヘルムさんは過去に一回直視したことがあるとか

 そんな話をしていたら、アンディがアダマント様とルビィ様に挟まれて、部屋に入ってきた。

 あたしの顔を見て、嬉しそうに笑顔を浮かべる。


「おはようございます。エメラルド様」

「おはよう、アンディ」


 わー今日も可愛い~。アレクとアンディ、可愛い子に挟まれて嬉しい~。


「元気そうで何よりだ、エメラルド。今回の攻略ご苦労だった。十二階層攻略だって?」


 アダマント様の言葉にオルセンさんとセドリックさんの視線があたしに向かう。

 え? おかしいの? アンディがいるし、サムもいたからこんなもんでしょ?


「十二?」

「いきなり一人増えたからって、十二?」


 あたし一人だったら、ちまちま進んで、今頃まだ五階層にも到達してるかどうかだもんね。

 そもそも、死んでる……スタンピード起きてる。

 それが十二階層なら上々の攻略具合ってみてもらえるのかな……。アダマント様やルビィ様的にはどう思われてるのか気になるところだけど。

 あたしが魔女の後継になるとか望んだことではないけれど、いろいろ支援を受けてる身としては成果を見せないとダメな気がするから……。


「それよりも、サンドラが入ったって、オルセンさんから伺いました。合計何名で入ったんですか?」

「お嬢さんと、お供でだいたい30名前後かな」


 あたしの質問にアダマント様が答える。

 サンドラ……やっぱり入ったのか……。入るとは思ってたけれど。

 街でばったり会った時は逃げ出したのに、何がどう彼女にダンジョンにはいる決意をさせたのか……さっぱりわかんない。


「一応、マクラウドの娘がダンジョンに入るところは、エメラルドも気になるだろうから、映像に残してある。あとで見せよう。とりあえず、エメラルドの攻略の映像から見てみようか」


 五階層の草原映像で、ブルヘルムさんとオルセンさんは一瞬顔をしかめた。

 グールやスケルトンの映像にも。

 サンドラがダンジョンに入ったことで空間の風景の変化とアンデッドのバリエーションが出てきたこと。

 サファイア・ダンジョンとの違いを知っているからだろうな。


 でも、この場にいる人達が一番驚いたのは……やっぱりスケルトン・サムの存在だった。


 アダマント様はテーブルに肘を立て口元に手をやって笑いを噛み殺している。

 コミュニケーション可能なモンスターは知っているらしいけれど、これはサムのキャラクターとかが笑えるのかな。


「すごいな、エメラルド。こんなモンスターまでダンジョンに現れたか」

「……はい……このスケルトンは、あたしが二回目のダンジョンアタック前に、団体で入った攻略者の一人です」

「このスケルトン強いの?」

 セドリックさんに質問されて、あたしはアンディを見ると、アンディは首を横に振ってる。


「エメラルド様が本気になれば、討伐できます」


 うん。あたしもダンジョンの中で一瞬思った。

 メイスで頭蓋骨をボコれば行けそうな気がする。

 本来、アンデットに有力な魔法は、聖魔法とか浄化魔法とか光魔法と言われている。

 でもこの辺境領のダンジョンに出現するモンスターには効果がない。

 この辺境伯爵領には神に対する信仰が薄いというのが、原因かもしれないと他のダンジョンでも研究されてるらしい。

 多神教だし、それぞれの人がそれぞれの神様をふんわりと信仰してる感じだからって、一番最初にダンジョンのついての講習でルビィ様から教わった。

 だからこの辺境伯爵領のダンジョンに出現するアンデッドは、物理で討伐するしかない。


「十二階層にいくまであっという間だったな」


 いや~途中で仮眠とかとらせてもらったから、そこの映像はカットしてる。

 ダンジョンカードって有能。


「初級の魔法を上手く組み合わせてるね、エメラルド様。いいですね」


 セドリックさんに褒められた!

 ダンジョン攻略トップランカーの魔法使いに褒められた!

 自分の使える魔法を、レベルが低くても使おうって思ってやってみてよかった。


「大きな魔法はまだ使えないので、簡単な魔法で戦況を変えていこうって、こういう感じで……大丈夫ですか?」

「いいと思う。上出来だ。基本の応用、実戦で使えそうなら、やってみてほしいって思っていたけれど、出来てる」

「引き続きご指導お願いします」


 セドリックさんは頷いてくれた。


「それよりも、あのスケルトンだよ、何アレ、ちゃんと人間だったころの自我があるって」


 オルセンさんもやっぱりサムが気になるのか……。


「アダマント様のダンジョンには喋るモンスターがいるって、アンディから訊きましたけれど……」


 あたしはお二人に尋ねた。


「妄執が強いと、自我が残るらしい。あと、魔女の恩恵があるもの――あるいは回復魔法をモンスターにかけたりとか……お前、あのスケルトンに回復魔法なんてかけてないだろ? 低層階だけだったし、アンディがいるからその必要もないと思っていた。今回の魔法訓練はそこを教えるつもりだったから――」


 先に答えたのは、ルビィ様。

 妄執――と、魔女の恩恵……モンスターにかける回復魔法……。

 やっぱ魔女の恩恵かな、今回のサムの場合は。


「スケルトン・サムは、あたしの付与を施した剣を所持していました」


 あたしがそう答えると、アンディを除くその場にいる全員は「それだ」と呟いた。



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