Column5 「『〇△▢』という作品を出版させていただきました」について

 今回も「~させていただきます」に関するお話です。良かったらお付き合いください。


     ☆


 ――『〇△□』という作品を出版させていただきました。


 自分の書籍が出版されたら、こんな風に言ってみたい……! と、思っている方もいるかもしれません。もちろん、本の出版をするまでに関わって下さった方々に報告するにはこの言い方は問題ないでしょう。


 しかし、今まで応援してくれた読者に対して言い放つのであれば、少々お待ちを。最近はこの「させていただく」が浸透しているので、気にならない方も増えてきているようですが、「何でそんなことを言うの?」と思う方もいるかもしれないので注意が必要なのです。


「させていただく」はここまでも書きましたが、「許可を出す誰か」と「(それを)許してもらう誰か(≒私)」が成り立っていることが必要でした。


 確かに、カクヨムさんから出版に漕ぎつけた場合はそう言いたくなる気持ちもあるとは思います。読者選考がありますから、読んでくれた人の影響が少なからずあるためです。


 しかし実際に、その書籍を出版することを決めるのは出版社でしょう。

 出版社の偉い方々や編集者の方々が会議にかけて議論し、「よし、売ることにしよう」と許可を出すことで世に出されるのです。そのため、読者の中には「私がその本を出させてあげたわけじゃない」とか「私に許可を取っているわけもないのに、どうしてそういう言い方になるの?」と感じてしまう方もいらっしゃるということなんです。


 しかし「させていただく」が使えないなら、どうやって応援してくれた見えない読者の方にもこの感謝の気持ちを伝えることができるのでしょうか。

 これについて野口恵子氏の『バカ丁寧化する日本語 ~敬語コミュニケーションの行方~』には「おかげさまで」を使うと良いとのことが書かれていました。


「おかげさま」というのは「おかげ(御蔭)」の丁寧な言い方です。皆さん意味は何となく分かっていらっしゃるかとは思いますが、一応辞書で引いた内容を下記に引用いたします。



【おかげ】『新明解国語辞典 第八版』

[「お」は丁寧さを添える接頭語]

㊀神仏や善意ある人から受けた恩恵(によって得られた幸運)。

㊁偶然の出来事(本来、それを意図して行ったものではないこと)によってもたらされた幸運。

㊂[「――で」の形で、接続詞的に]前件の有形・無形の効果として、後件の好ましい(幸運な)状態がもたらされたととらえることを表わす。

「ご協力ありがとう。――で万事うまく運んだ」


 ――さま[――様]

 他人から受けた支援や親切に対して謝意を表す言葉。

「――にて愉快な旅が出来ました」



 ここから「おかげ(さま)」が「他人から受けた支援や親切に対して謝意を表す言葉」であることが分かりますよね。この言葉を使うことによって、許可を出した人ではなくとも、陰ながら応援してくれた人たちにも包括した言い方になります。


 ――おかげさまで、『〇△□』という作品を出版することができました。


 いかがでしょうか。

「『〇△□』という作品を出版させていただきました」という言い方に抵抗がある方は、この例文を使ってみるのも良いかもしれません。


 ただ、Column4の「本日、都合により休業させていただきます」のところでも書きましたが、近頃は「『させていただく』を『いただく』と同様の謙譲語として捉えている人からすると何の問題もなく、自分を立ててくれているのだと感じている」こともあるので、どちらを使った方がいいのか悩ましいといえば悩ましいかもしれませんね……。

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