5話「二人で買い物へ」

「「ごちそうさまでした」」


 食べ終わって空になったお皿を引き上げて、洗い物を始める。


「私が片付けするよ」

「そんなに洗うもの無いから、このまま俺がやってしまうから大丈夫」


 芽衣に片付けをすると言われたが、冬場で水も冷たいし、ササッと自分の手で済ませる。

 そんな様子を見たあと、彼女は冷蔵庫の中を開けて中身を確認し始めた。


「うわっ、清々しいほどに空っぽだねぇ」

「寒いし、勉強もあって買い物が面倒で、ずっと後回しにしてきた結果よ。さっき昼飯作るときに、この現状が発覚した」

「まぁ、腐ってる物が入っているよりは、全然こっちの方がいいよ。ただ、これじゃ何も作れないね」

「この後、買い物行かざるを得ないな」


 勉強も終わって時間もまだあるので、今日の内にそれなりに買い溜めしておくしか無さそう。

 休みで人が多いとは思われるが、ここは我慢して行かないと、食べるものが無い。


「じゃあ、一緒に行く。私が作る予定になったから、食材選びしてもいい?」

「うん」

「心配しなくても、食費は私が全額持ちするから!」

「え? 割り勘でいいぞ」

「ただでさえ、無料で泊まらせてもらってるから……!」


 変に背伸びするなって、数時間前に言ったばかりだが、こうして言ってくるあたり、相当申し訳ないという意識が強いらしい。


「……ご飯を毎日作ってくれるってことは、とてつもなく大変なことだって知ってるから、続けて頑張ってくれるだけで十分だから。途中で出来なくなったりでもしたら、全額負担にさせようかな」

「……本当にそれでいいの?」

「いいよ。そもそも割り勘なら、一人で買い物する分と変わらないし」

「分かった」


 高校時代まで、彼女は勉強の時とかどんな時でも、どんな些細な問題でも俺を遠慮無く呼び出して、こき使っていた。

 そんな遠慮のない姿に振り回されつつも、それなりに信用してくれているからこそのものだと思っていた。

 そんな俺にとって嬉しかった彼女の一面は、どうやらこの数ヶ月で影を潜めてしまったらしい。

 少し接点を持たないだけで、こんなものなのか。

 あまりにも、こちらに申し訳さそうにする彼女を見るたびに、寂しさを感じる。


「いつぐらいに買い物に出かける?」

「飯食ったばかりだしな。一時間後位を目処に、出発するか」

「分かった! もう今日の勉強はおしまい?」

「今日やる分は終わった。これ以上やっても、どれほども集中力続かないし」

「そっか、お疲れ様やね。私が寝ている間、ずっとやってたんでしょ?」

「そうだぞ、必死にやってる横で幸せそうに爆睡しおってからに」

「いやいや、恥ずかしいところをお見せしたね」


 あくまでも笑顔で元気良さそうに振る舞う彼女。


「……あんまりホテルでは休めてなかったんだな」

「……うん」


 そんな彼女に、ちょっとだけ突っ込んだ話を入れると、すっと笑顔が無くなって、肯定するだけの返事が返ってきた。


「本当に何も気にしないで、お前が嫌になるまではここでしっかり休むことにしたらいいから」

「……ありがとう。正直、すごく助かる」

「あいよ」

「買い物に行く前に、すでにある調味料とかのチェックさせて」

「うん。IHクッキングヒーターの下の棚に常温系は入れてあるから」

「オッケー」 


 俺がスマホでSNSやら、ソシャゲのスタミナ消費をしながら食後の休憩している間、芽衣は各調味料などをチェックして、メモを取っていた。

 その姿を見ると、確かに料理の出来る人の動きって感じがする。

 お互いに食後の時間を過ごした後、上着を着て外出の準備を始める。


「そろそろ行くか」

「うん。いつも買い物に行く場所はどこにあるの?」

「歩いて10分弱位かな。そんなに大きいスーパーじゃないけど、基本的に不便を感じることはないよ」


 自室の鍵を締めて、スーパーへと向かう。

 いつも一人で行くのが当たり前なので、こうして芽衣が付いてくることに、どうしても違和感がある。


「あそこのスーパー?」

「そうそう」


 少し歩けば、すぐに視界の中に入ってくる。


「これくらい近ければ、便利だね。つくづくいい立地条件のマンションにいるよね」

「俺が部屋を探している時で、すでにほぼ満室だったからな。そりゃ人気出るわって感じ」


 ただ、最近はこの距離ですら面倒に感じているのだが。慣れって恐ろしい。

 スーパーの中に入ると、暖房が効いていてムワッとする。

 早速かごとカートを設置して、買い物を始める。


「今日買えるものは、出来るだけまとめて買っておいてもいい?」

「もちろん。ただ、冷蔵庫と冷凍庫があんまり大きくないから、要冷蔵物の買いすぎだけには気をつけてくれ。買って帰ってから入らないのが、一番面倒になるだろうから」

「分かった。もし、そういうものが足らなくなったら、仕事の帰りに追加の補填で買うね」

「どうせ勉強ずっと一日中出来ないから、言ってさえくれたら補充の買い物は行っておくけど」

「じゃあ、出来るようだったらお願いしてもいい?」

「了解。仕事大変な上に、料理までやってくれるんだから、出来るだけまっすぐ迷子にならずに帰ってこい?」

「そうする」


 そんな会話をした後、俺はカートを押して、芽衣はその先を歩きながら、買う食材の品定めをする。

 初めてだが、それなりに落ち着いた形を取りながら、俺たちは買い物を進めていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る