6話「何買う?」

「どういう考えで食材を買っていくんだ?」

「安売りしているものを基準に考えながら、汎用性の高い物を合わせていこうかな」

「そんな器用な考え方出来るのか……」

「今はスマホでレシピサイトとかで、いくらでもその時の条件に応じたレシピ探せるから。たとえ、買った野菜の一つが多く余っても、大量消費って検索かけたら、いくらでもレシピあるよ」

「なるほど」


 話を聞けば聞くほど、信用しても良さそうな気がしてくる。

 俺の場合は、野菜と言っても毎回同じ種類のものを買って、同じようなメニューしか作れないのに。

 それすらも、たまに面倒になってサボってしまうが。


「ま、そんなに洒落た料理とかは出来ないけどね」

「別にそういうのは気にしてない。毎日、作ってもらえるだけでもありがたいのに、それに加えて違う料理が出てくるんだから」


 安売りしている野菜や、少し大きめの肉のパック、卵などの食材をカゴに入れながら、スーパーの中を回っていく。

 いつもなら必ずお世話になる惣菜コーナーを、芽衣は目もくれずスルーした。

 その代わり冷凍食品コーナーへと向かい、今まで俺があまり使わなかった冷凍食品の惣菜を選び始めた。


「お弁当は、ちょこちょこ冷食入るけど、許してね」

「全然構わないぞ。弁当は晩飯の残りとか、冷食で完成してもろうて」

「なんか今まで食べた冷食の中で、好きなやつある? それ買おうかなって」

「じゃあこれで」

「うん」


 後は、朝ご飯用のパンやヨーグルトを購入した。

 基本的に朝昼晩と使いそうなものは、あらかた確保出来た。


「こんなものか?」

「うん。調味料は一式あったから、今のところ追加・補充購入はしなくてもいいかな?」

「じゃあ、会計に行くか?」

「えっとね、ちょっと欲しい物があるんだけど」

「何が欲しいの?」

「んとね、それ買っちゃうとすごく重くなるから、嫌だったら全然良いんだけど……」


 買ったらすごく重くなる?

 調味料はあるし、米も親の仕送り分で相当な量ストックされている。

 それ以外で重くなる物って、何かあったか?


「ジュースが……欲しいです」


 芽衣は申し訳さそうというか、恥ずかしそうに小声で欲しい物を伝えてきた。


「……買えば良くない?」

「買うなら、コスパ考えて1.5リットルの大きいやつになるんですけど、いいですか……?」

「むしろ何で駄目だと考えている……?」


 まだ俺たちは20歳になっていないので、飲むとしたらジュースになる。

 酒を買いたいと言われたら、流石に無理だと言わざるを得ないが、何故ジュースでそこまで言いにくそうにするのか。


「だって1.5リットルすごく重いじゃん。それに……子供みたいだし」

「子供みたいも何も、年齢的にはまだ子供だから気にしなくていいだろ」


 芽衣は、社会的には大人だけれども、年齢は俺と同じでまだ10代。

 ジュースを飲む選択肢をちゃんと取れる辺り、別に恥ずかしがらなくていいと思うが。


「好きなやつ選びな。ジュースの入る袋は、俺が持つから」

「ほんと? じゃあ、これにしよ!」

「ほいほい」


 ジュースを買ってもいいと言ったときに、嬉しそうな顔をする辺り、とても無邪気。

 スーパーをぐるっと一周して、一通り必要なものをカゴに入れたので、レジに向かって精算を行う。

 何だかんだ少し生鮮食材の量が増えたぐらいで、そんなに一人で買う分と大きな差は出無さそう。

 商品を全てレジに通しを終えると、店員さんから合計金額が伝えられる。


「すいません、これお願いします」

「はい、かしこまりました」


 俺が財布を開いて、大学の生徒証を見せると、レジに貼り付けてあるバーコードを店員さんが読み込んだ。


「何それ!」

「最寄りの大学生であることを証明できたら、5%オフにしてくれるんだよ」

「えー、それいいなぁ」


 何だかんだまとめて買い物した金額で5%分戻ってきたら、大きい。

 その割引一ヶ月分で昼飯二、三日分に普通になるから、バカには出来ない。


「ここは私が払うんだ!」

「じゃあ、任せた」


 颯爽と支払いに芽衣が割り込んできたので、そのまま支払いを任せて、俺は一足先にレジ袋に商品を入れる。


「私が前まで買い物してたところより、安いなぁ」

「それで割り勘なら、お前のお財布的にも優しいだろ?」

「正直なところ、そうだね」

「働いて、色々使いたいこともあるだろうから、出来るだけ節約できる所はしていこうぜ」

「うん」


 芽衣と一緒に、丁寧に袋詰を行う。

 そこそこ大きな袋が3つほど出来た。


「俺がこの2つを持つから、お前はこれを持って帰ってくれ」

「その2つ、特に重いやつじゃん。片方の重いやつぐらいは持つよ?」

「この寒さで、こんな重いものを非力な女が持ったら、手が千切れそうで怖いからここは譲らねぇ」

「バカにしおってからに……。途中で変わってほしいとか言っても、絶対に変わらないんだからね!」

「ぴっちぴちの10代の男だぞ、これぐらいで根をあげるわけがないだろう」


 すでにちょっと肩がプルプルしているが、何の問題も無い。

 スーパーから出ると、すでに日は西の方に傾いて、気温がどんどん低下している。

 ちょうど寒波が襲来しているらしく、寒さが特に厳しい。


「辛くなってきたんじゃないの〜?」

「……まだまだ!」


 歩き始めて5分後。


「後ちょっとだから頑張って!」

「手が……手が千切れるううう!」


 重いものが入ったレジ袋。舐めてはいけない。

 世の中には買い物グリップと言って、このような時に痛くないようにするグッズも存在するくらい。

 冬の寒さと更には乾燥が、俺の手に更にダメージを与え続けた。


「やっと着いた……」

「はい、お疲れ様」


 やっと自室に帰還し、玄関先に荷物をゆっくりと下ろした。

 手は真っ赤になり、意図しない震えが起きている。

 この程度で悲鳴を上げるとは、我ながらに情けなさしか感じない。


「ほらー、無茶するから」

「正直言って、舐めてました……」

「片付けは私がするから、手を洗ったらゆっくり休んで」

「あい……」


 冷たい水に再び悲鳴を上げながら、手を洗って上着を片付ける。

 その横で、芽衣が鼻歌を歌いながら冷蔵庫と冷凍庫に商品を片付けていく。

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