4話「昼食を作ってみた。」

 更に数時間後。


「今日やる分、何とか終わった……」


 時計を見ると、2時を指している。

 予定していた分を終わらせるのに、5時間以上掛かった。

 ベッドの方を見ると、未だに芽衣は眠ったままである。


「昼飯、作るか」


 この感じだと、芽衣は欲しがらないかもしれないが、個人的には腹が減ったので、軽く昼飯を作ることにした。

 冷蔵庫を開けて、中に残っている使えそうな材料が無いか見てみる。


「大したものが残ってない……」


 残っているのは、キャベツ4分の1や半分になった人参などしかない。

 買い物に行くことすら面倒で、後回しにしていた結果である。


「冷凍庫の中は……」


 野菜だけでは腹を満たすのは、難しいのでさらなる食材を求めて冷凍庫の中も物色。

 残っていたのは、スライス豚バラと冷凍うどん。

 作れるものとして浮かんだのは、一つぐらいしかなかった。


「もう焼きうどんでいいや……」


 一昨日ぐらいに食べた記憶があるが、飽きなどの嫌な気はしないので、ササッと作ることにした。

 一人暮らしを始めた時は、自炊もするぞと意気込んでいたが、結局こんな簡単なものしか未だに作ったことがない。

 冷凍豚バラを軽くレンチン解凍して、フライパンで炒める。

 後は野菜を突っ込んで一緒に炒めて、茹でた冷凍うどんを入れて、酒と醤油とだしの素で味を調えるだけ。


「うーん……。何かいい匂いがする……」

「お、起きたか」


 豚バラに塩コショウをしながら炒めていると、目を擦りながら芽衣が起きてきた。


「ずっと寝てたから、あんまり腹減ってないだろ?」

「うーん、そうでもないかも」

「マジかよ」


 あれだけしっかり朝飯食った後、ほぼ寝てただけなのに、何で腹が減るんだ。


「すぐに出来るから、ちょっとテレビの前にあるテーブルの上にあるものをどけて、座っててくれ」

「はーい」


 肉と野菜を一緒に炒めながら、一方で冷凍うどんを茹でる。

 IHクッキングヒーターが二つあるということは、非常に便利である。

 茹でたうどんを、そのままフライパンの方に移して、目分量で味を付ける。

 出来た焼きうどんをいつもはあまり使わない大きなお皿に移して、芽衣の待つテーブルに持っていった。


「おー」

「取皿と割り箸持ってくるから、ちょっと待って」


 少し小さめのお皿と、コンビニに頼りまくった怠惰の証として積み重なった割り箸を一つ取って、芽衣に渡した。


「「いただきます」」


 お互いに取皿に焼きうどんを取って、口に運ぶ。


「……美味しいじゃん」

「こんなん誰にでも出来るだろ」


 野菜を切って、炒めるときに焦がさなければ誰にでも出来る。


「……久々に人に作ってもらった温かいご飯、食べたなぁ」

「朝も食べたやろ?」

「お店とかじゃなくて、こうして普通に作ってもらうってこと」

「元カレは作ってくれなかったのかよ」

「作るわけない。たまーにコンビニで買って来た位で用意しといたぞって堂々としてたレベルだもん」

「なるほど。それに加えて実家にも帰ってないなら、まぁそうなるか」

「やっぱりこうして人に作ってもらったものって、一段と美味しいよ」


 ニコニコと笑いながら、焼きうどんを口に運ぶ芽衣。

 そこまで素直に称賛されると、少しこっ恥ずかしい気持ちになる。


「拓篤もそう思わない?」

「……って俺も実家に戻ってないから、そう考えると人に作ってもらった飯、食ってないからよく分からんかも」


 芽衣にそう言われて思い返してみると、大学に入って一人暮らしを始めて以降、一回も実家に帰っていない。

 親以外で、俺にわざわざ料理を作ってくれるような人など存在しないので、そうなるのも当たり前だが。


「拓篤もそんな感じかぁ」

「だな。こうして一人暮らしすると、飯を作ってくれる有り難さがよく分かるよ」


 どんなにお手軽なものですら、多少なりとも時間や労力がかかるので、料理というものは楽ではない。

 勉強や実習などの大学生活から帰ってきて、さぁ料理とはまずならない。


「じゃあ、あんまり料理とかしないの?」

「しないな。こういう簡単なものとか、野菜山ほど入れた味噌汁とかで野菜量カバーするくらいしかしない。面倒になると、すぐにコンビニ頼るしな」


 コンビニに売っているものって、カロリーと塩分の宝庫な上に、値段も張るから避けるべきなんだろうけど、お手軽って怖い。


「なるほど〜。ってことは、料理を作ってくれる人が居たらいいなぁって思っているわけだ?」

「そりゃあな。多分、下宿してる大学生の9割以上はそう願ってると勝手に思ってる」

「なら、作ってあげようか?」

「は?」


 自らを指差しながら、ちょっとドヤった顔でそんなことを切り出してきた。


「料理、作ってあげるよ? こうしてここに泊めてくれるんだから、それぐらいはするよ?」

「……作れんの?」

「何でそんなに疑っているんだ……」

「だって、出来そうな雰囲気じゃない」

「失礼なやつだなぁ……」


 芽衣が料理? 高校の時、家庭科の調理実習とか卒なくこなしてたっけ?

 あんまり料理のイメージがないし、仕事も忙しいことを知っているので、とても出来そうなイメージがないが。


「こう見えても、毎日料理は作ってたよ?」

「仕事行ってるのに?」

「うん。そうじゃないと、誰もやらないし。仕事から帰って、そこから調理とかしてたよ」

「すげぇな……」

「ま、お試しで私に炊事をやらせてみない? どうせテスト勉強でまともな料理なんてしたくないでしょ?」

「確かにそれはそうだわ」

「よし! ちょいと任せてみなさい! 人にご飯を作ってもらえる喜びを噛み締めさせてあげるからさ!」

「まぁ、そこまでやる気あるなら……」


 やけにやる気になっている。

 何か役に立たないとっていう危機感でもあると刷るなら、別にそんなこと気にしなくてもいいのだが、やる気になっているので、任せてみるか。


「よし! 朝ご飯と、お昼のお弁当、晩ご飯は任せて!」

「3食ともやるのか!? 流石にそこまでは……」

「遠慮しないで!」

「本当にまともな物を作るんだろうな……?」


 3食とも変な物が出てきたら、申し訳ないがそこで退去をお願いせざるを得なくなるが。

 もし美味いものが出てくるなら、無理のない程度で是非ともやってもらえたら、嬉しいことは間違いない。

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