第16話

「彼らが出かけます」

 蓮宮を見張っていた須藤が言った。

「ああ、そのようだな」

「どこへ行くんでしょうね?」

「行くぞ」

 五十嵐と須藤は、蓮宮を泳がせて尾行していた。

「銀髪の少女も一緒ですね」


 蓮宮、九条、銀髪の少女『ゆき』は、マンションの前でタクシーに乗った。

 五十嵐と須藤は、車で後をつけた。


 蓮宮たち三人は駅でタクシーを降りて、電車に乗るようだ。五十嵐と須藤は車を乗り捨て彼らを追った。蓮宮は窓口で切符を購入し、ホームへ向かった。五十嵐が後をつけ、須藤が窓口で警察手帳を見せて、どこ行きの切符を購入したかを確認した。


 ちょうど帰宅ラッシュとなり、乗り込んできた乗客らに、蓮宮たちの姿は埋もれて見えなくなった。

「応援を頼む……」

 五十嵐は車両の隅で、乗客に背を向けながら、誰かに電話をしていた。

 乗り込んで二つ目の駅のホームから、女性と男性のカップルが、蓮宮たちの乗った車両に乗り込んだ。カップルは、蓮宮たちの姿を確認すると、五十嵐に報告した。尾行はカップルが続行し、その後を五十嵐と須藤が追った。


 蓮宮たちは東京駅で降り、新幹線に乗り、京都駅で乗り換え、彼らが向かった先は、葛城山だった。


「遠いところまで来ましたね。ここに何があるんですかね?」

 須藤が聞くと、

「知らないのか? ここは役小角えんのおづぬの開祖した修験道の行場だ」

 呆れたように五十嵐が答えた。

「知りませんよ。そんなマニアックな情報、どこで必要なんですか?」

「今だろ」


 葛城山登山口に着いたのは、夜の十時を過ぎていて、当然営業は終わっていた。しかし、急に明かりが灯り、蓮宮たちは導かれるようにロープウェイのゴンドラに乗り込んだ。五十嵐、須藤、カップルの刑事は、次のゴンドラに乗った。

「どうなっているんですかね? もう終わっているはずですよ。彼らが来て、急に動き始めるなんて、おかしくないですか?」

 須藤はこの不可思議な現象を訝しんでいた。

「おかしなことなんて、世の中いくらでもある」


 ほどなくして、ゴンドラは葛城山の頂上に着いた。ゴンドラから下りた蓮宮たちの前に、灯りを手にした修験者が現れ、彼らを案内した。五十嵐たちもそれに続こうとしたが、大きな身体に行く手を阻まれた。須藤は思わず声を上げそうになり、口を押えた。そこには、見た事もないような恐ろしい顔の鬼が立っていた。

 後ろではすでに、男女の刑事が他の鬼に捕まっていて、五十嵐は須藤に目配せし、大人しく捕まることにした。

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