第15話
そこまで話すと、九条は語りを
「あなたは、鬼伝説をどこまで知っていますか?」
蓮宮に質問した。
「村の若い女性が、血を吸う鬼に襲われ、村人がその鬼を見つけ出し、殺してあの鬼塚に埋めた。このほかに、伝説はあるのかしら?」
「はい。もう一つの悲しいお話しが……」
九条はそう言って、語りを続けた。
もう一つの悲しいお話し。それは、あの村で生まれた不思議な少女のお話しです。
ある女が、奇妙な
今はもうありませんが、あの山の頂上に寺があり、住職が一人で住んでいました。赤子の泣き声に気付き、母の亡骸と共に寺へ連れ帰り、死者を葬ると、赤子は自ら育てました。赤子には『ゆき』と名付け、決して人に姿を見せてはならぬと教えました。
それから、十年の月日が流れ、あの忌まわしい鬼伝説の事件が起こりました。村の若い女が襲われ、男たちは奮起し、山の中を探し回り、少女を見つけたのです。銀髪赤眼の少女はまさに人にあらずと、追いかけて掴まえ、動かなくなるまで暴行しました。
そこへ駆けつけたのは、修験者の男でした。
「その者は人である」
と告げ、村人を諫めましたが、聞き入れる事はなかった。住職も駆けつけたが、時すでに遅く、少女は無残にも死に絶えていた。住職は少女を大事そうに抱えると、涙を流しました。
修験者は、まだ鬼が山にいる事を皆に告げると、醜い鬼が闇から姿を現しました。それを法力で滅すると、村人たちは自らの過ちを知ったのです。しかし、奪った命はもう返らない。
修験者は、少女が人を恨み、鬼と化し、災いをもたらす事の無いように、その墓に封印を施したということです。
九条はそこで語りを終えた。
「その少女が、この子で、名前は『ゆき』ちゃんね」
蓮宮が言うと、
「はい、そうです。ゆきは遺伝子の異常で色素のないアルビノです。今の時代ならこんな悲劇は起こらなかったと思います。ゆきはすでに死んでいるのです。私にはどうすることも出来ませんでした。しかし、ゆきは喉の渇きが癒せないと、本能のように人を襲ってしまいます。そうならないように、私が人の血を集め、ゆきに与えていたのです。いけない事だと分かっていました。誰かに止めて欲しいと思っていました。しかし、ついに私は人を殺してしまったのです」
九条はそう言って、頭を抱えた。
「九条さん、人の命を奪ってしまった罪は償わなければいけません。けれど、あなたにはまだ、やるべきことがあります。『ゆき』を葬ることです。彼女は人ではない。私たちではどうにもならなくても、修験者なら葬ることが出来るかもしれません」
そう言って、蓮宮はゆきを見た。
「ねえ、こんなこと言って大丈夫だったかしら? ゆきは怒らない?」
「はい。彼女もそれを望んでいるのです。ゆきはかつて人間でしたから、鬼となってこの世に戻り、人の血を吸う
「可哀想ね。分かったわ。私の知り合いの修験者の元へ行きましょう」
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