第14話

「あなた、力持ちね。それに、驚くほど速い」

 少女は蓮宮を下ろすと、無言で蓮宮からは離れ、九条の斜め後ろについた。

「九条さん、ご挨拶が遅れました。私は旭日出版の記者をしている、蓮宮はすみや玲子れいこと申します。突然の訪問でお気を悪くされたかと思いますが、『大都会のヴァンパイア』という都市伝説について、あなたにお伺いしたいことがあります。話していただけませんか?」

 蓮宮は九条に名刺を差し出しながら言った。

「どうぞお座り下さい。あなたが私を追っていることを知っていました。あなたの素性も知っています。この子の存在も、あなたは知っているのでしょう。人でないことも……。ではお話ししましょう」


 九条はそう言って語り始めた。



 昔から日本各地で伝えられている鬼伝説。私の父、九条誠一が鬼伝説の研究のため、あの町へ来たのは、私がまだ幼い頃でした。

 鬼伝説にまつわる資料が残されていて、史実にある鬼塚も存在している事を知り、父はあの町の鬼伝説にのめり込むように研究していました。鬼塚には殺された鬼の遺体が眠っている。鬼の墓石に書かれた文字が封印である事など知るたびに、父は興奮しました。そして、それらの研究をまとめた書籍を出版しました。


 父が非常勤講師を務める大学に通う学生が三人、その本を手にあの田舎町を訪れ、本当に鬼塚が存在している事に興奮した学生らは鬼の封印を解く儀式を行いました。本物の鬼が存在し、鬼塚に埋められているならば、儀式によって蘇るはずだと。

 彼らは動画を撮影しながら、墓石の文字を草の汁で消し、事前に用意した、自らの血を土に注ぎ、

「眠りし鬼よ。復活の時はきた。今ここに目覚めよ」

 そう言って、彼らは鬼の復活を待った。


 動画はこれで終わっていました。ライブ配信していたようですが、最後は動画に乱れがあり、配信は止まってしまった。その後の彼らの消息は不明とのことです。


 一夜明けて、町の住民が鬼塚の異変に気付き、父に報告しました。現場を見た父は、鬼が目覚めた事を知りました。そして、そこには父の著書が落ちていて、その責任は自分にあると、自らを責めたのです。


 父は復活した鬼を探しました。昼も夜も探し続け、ついに見つけたのです。その姿は幼い少女で、父は鬼封じを施し、自らの身を少女に巻き付け、共に崖から身を投げたのです。しかし、崖の下には父の遺体しかなかったのです。

 母は父の遺志を継ぎ、電車へ飛び込みましたが、やはり鬼は逃げて、母の遺体しかありませんでした。


 私はそれをのちに知りました。その頃すでに、一人で都会に来ていましたので……。両親は私に何も話してくれませんでした。きっと、巻き込みたくなかったのでしょう。

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