キョウジ歴元年~終わり

なお、農耕を行いそれなりに理性的な社会生活を営める集落が存在するなら<文明>と考えてもいいとする向きもあるかもしれないが、残念ながらある程度以上がまとまって利用している<暦>というものが発明されていない段階では、ここでは敢えて<文明>とは見做さないこととする。


また、<地球>と呼ばれる惑星はいくつもあり、そのどれもが<本物の地球>であり、コピーされた歴史を辿っていてもそこに暮らす人間達に認識できなければそれは<本当の歴史>であって、どれがオリジナルでどれがコピーであるかというのもあまり意味はない。


加えて、クォ=ヨ=ムイは邪神であるため<時間>というものもさほど意味をなさず、特に情報だけならどの時間にでも簡単に送ることもできてしまうので、<死んだ人間の情報>を任意の時間に送り<転生>させることもできてしまう。


この時期は、本格的な遺跡が近くにでもなければそれこそ牧歌的なゆったりとした時間が流れる世界だったため、厳しい人生を送ってきた者を送り込むとその多くが<平穏な暮らし>を望み、それを楽しむことを信条とする者がほとんどだった。


しかしある時、クォ=ヨ=ムイが送り込んだ人間が<遺跡>の存在を知り、そこから発掘された数々の物品の使い方を理解し、それを用いて自らを<王>と称して<国>を築き、そして<キョウジ暦>を制定した。ここに、<ガアレノウス文明>が誕生する。


キョウジ暦元年。レイオスティーリア大陸西端において<岳城たけしろ浹司きょうじ>が築いた<ガクジョウ国>で、浹司は、至高王<キョウジ>として世界を思うままに操ろうとした。彼がその使い方を解き明かした数々の遺物がそれを可能にしてくれた。さらにキョウジは、前世で女性に縁がなかったのを贖おうとして、気に入った女性は後宮に召し上げて、自分の思うままにしようとした。しかも、自分の思うとおりにならない者、自分に反抗的な者は、遺物の力で抹殺。抹消。誰にも逆らうことを許さなかったのである。


キョウジ暦022年。だが、そんなことを続けていれば当然、それを恨みに思う者も増えてくる。と同時に、何とかしてそのような悪辣な支配者を打ち倒そうと知恵を絞る者も出てくる。青年<ラディサ>は、姉をキョウジに召し上げられた上、それに抵抗しようとした両親を殺された者だった。利発だったラディサは、キョウジに真っ向歯向かえばすぐに殺されてしまうことは分かっていたので、まずは召使い達のさらに下働きとして王城に潜入する。


キョウジ暦033年。過酷な労働に耐えつつ王城で使われている様々な遺物について調べ上げ、その機能に精通。ついにキョウジすら知らなかった機能を解き明かして遺物の支配権を奪い、キョウジからありとあらゆる力を取り上げて王の地位を剥奪。王城から追放する。キョウジの圧政によって恨みを募らせていた国民達は、追放されたキョウジに気付くと集団で暴行。命乞いをする彼を踏みつけて死に追いやった。


キョウジ暦034年。悪王キョウジを追放した立役者であり<賢き者>と称されたラディサが新しい王となり、<フォスル>建国。新しい暦<ウルカ歴>を制定。キョウジ歴はわずか三十年余りで終わりを告げる。


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