第23話




<水族館>


姉「へー、この時間ってほんとは閉店してるんだ」


司書「クリスマス限定で延長してるんだってさ」


姉「閉店後の水族館ってちょっとぞくぞくする……」


妹「たぶん照明も普段より暗いしねー」


友(周りカップルしかいないじゃん)


司書「イルミネーションだ」


姉「ほんとだ」


司書「はい姉さんこれ」


姉「スマホ?」


司書「友ちゃん、写真撮ろ」


友「うえっ!? は、はい」



カシャッ



姉(友ちゃん顔真っ赤……)


妹(友ちゃん顔真っ赤……)


友「ありりがとととうござざざいます」カァァァ


姉「あはは、どういたしまして」


妹(友ちゃんやばい)


司書「二人も撮ってあげる」


姉「おー、ありがとう」



カシャッ



妹「おねえちゃん写真あとで送ってね」


姉「うん」


妹「これきれいだね」


姉「そうだね」


妹「おねえちゃん単品でも撮る」カシャッ


姉「単品ってなんだ単品って」


妹「あ、あそこのクリスマスツリーの前でも撮ろ」クイッ


姉「わかった」テクテク



友「……」


司書「どうしたの?」


友「……ほんとに、仲良いなーって思って」


司書「ん?」


友「いま一瞬でここらへん一帯にふわふわワールドを作られた気がするのです」


司書「ああ、うん」


友「あと絵になりますよね」


司書「そうね」


友「……わたしたちもつなぎますか?」


司書「つなぎたい?」


友「あ、その、えっと」


司書「わたしはつなぎたいかな」ギュッ


友「あ……」


司書「あ、つなぎたくなかった? 言ってみただけだった?」


友「……や、えと、つなぎたかったです」ドキドキ


司書「そう」


友「……」コクコク


司書「友ちゃん、緊張してる?」


友「……すこし」


友(……あれ、でもなんか手が……)


司書「大丈夫、わたしもよ」フイッ


友「……あ、はい」


司書「ほら行きましょう」クイ


友「……はい」





姉(手つないでる)


妹(友ちゃんが友ちゃんじゃないみたい)


司書「右周りと左周りがあるらしいから、二つにわかれましょうか」


姉「うん」


司書「……じゃっ、半分くらいで」ヒラヒラ


友「……」ペコリ


妹「行ってらっしゃーい」ヒラヒラ





姉「魚詳しかったりする?」


妹「まったく」


姉「わたしもだ」


妹「って会話を昔もした気がする」


姉「『次までに詳しくなっとくね~』って言った気がする」


妹「言われた気がする」


姉「成長ぜろだね」


妹「あそこは狭かったし、今日のところはかなり広い」


姉「まあ、わ~って見てわ~って盛り上がりたいよね」


妹「うん」


姉「てかこのウーパールーパーでかすぎ」


妹「でかい」


姉「好き?」


妹「かわいいよね」


姉「目がたまんない」


妹「ずっと見てられる」


姉「メキシコサラマンダーだってさ」


妹「アホロートルとも書いてある」


姉「どっちもしっくりこない」


妹「やっぱりウーパールーパーだよね」


姉「うん」


妹「あの上のやつってなんだろ」


姉「ホヤじゃない?」


妹「ホヤ……あれ美味しいよね」


姉「食べたことないや」


妹「じゃあ今度食べにいこ、海に」


姉「冬の海って寒そうね」


妹「手つないどけば大丈夫!」


姉「そうだね」クスクス


妹「次は、なにこれ、海藻?」


姉「マコンブ、オオバモク……」


妹「水族館で海藻を見るのって珍しいのかな」


姉「どうだろ」


妹「……このフナムシってアレだよね、海のゴ」


姉「やめよ」


妹「おねえちゃんって虫苦手なんだっけ」


姉「うんすごく」


妹「かわいいね」


姉「チンアナゴだ」


妹「にゅるってしてる」


姉「えっこのとなりのヘビみたいなのきれい」


妹「ほわいとりぼんいーる?」


姉「まっしろだかわいい」


妹「白いの好きなのか」


姉「きらきらしてるし」


妹「ふうん……白くて、きらきらね~」ニコニコ


姉「……? なんで笑ってるの?」


妹「わたしも白くてきらきらしてるの好きだよ」


姉「へえ、同じだね」


妹「うん」


姉「あ、大水槽だ」


妹「おっきいね」


姉「この中だと何が好き?」


妹「サメ、それとエイ。あ、イワシの群れも」


姉「いいね」


妹「あそこ座れるみたいだから、座って見る」


姉「うん」


妹「……」ジトー


姉「……」ジトー


妹「……」ポケー


姉「…………」トントン


妹「……ん」


姉「妹、あれ見て」ユビサシ


妹「え、え、なにあれ」


姉「サンタが泳いでる」


妹「すごい、行ってみよ!」パアア



テクテク



妹「……」フリフリ


妹「……ん、手?」


妹「……あ、……じゃーんけーん」


妹「ぽんっ!」チョキ



グー



妹「負けたーあはは」


姉「負けちゃったね」


妹「がんばってください」ペコリ





妹「クラゲだ」


姉「照明当たってきれい」


妹「何色がいい?」


姉「うーん、なんとなく、紫?」


妹「……ゆらゆらしてる」


姉「ね、クラゲってかわいいけどさ」


妹「ちょっと怖いよね」


姉「うん」


妹「でもそこが良い」


姉「わかる」


妹「……」


姉「……」


妹「……」


姉「……」


妹「……生まれ変わったらクラゲになりたいな」


姉「……海の中を、ゆらゆらぷかぷかしてたいの?」


妹「うん」


姉「そういえば最近だと、おうちでも飼ってる人いるよね」


妹「でも多分それ、ほとんど人工クラゲだよ」


姉「そうなの?」


妹「クラゲはむずかしいって、どこかで聞いた」


姉「飼いたいんだ」


妹「飼えるならね。何年後でもいいけど、一度は飼ってみたい」


姉「わかった、おぼえとく」


妹「ありがとう」ニコニコ


姉「わたしもクラゲみたいに生きたいな」


妹「そうなんだ」


姉「うん」


妹「……」


姉「……」


妹「いまのわたしは、クラゲみたい」


姉「ん?」


妹「おねえちゃんといると、ゆらゆらぷかぷかしてる感じがする」


姉「……」


妹「いつも……昔からずっとだよ」


姉「そっか」


妹「うん」





妹「おねえちゃんってさ」


姉「うん」


妹「ペンギンのどこが好きなの?」


姉「んー、むずかしい質問だ」


妹「わたしも、ペンギンはかわいいと思うけど、そんな乗り出して見るほど好きってわけじゃないから気になる」


姉「どうだろ……見た目はクールで落ち着いてそうなのに、心の中では違うことを考えてそうなところ、とか」


妹「うん」


姉「マイペースなところ」


妹「ふむふむ」


姉「よちよち歩きもかわいい」


妹「なるほど」


姉「それにペンギンを見てるとさ、妹が小さかったころを思い出して、かわいいなーって思う」


妹「へ」キョトン


姉「一挙一動すべてがかわいくて、いつも後ろについてくるのが嬉しかった」


妹「……わたし、成長しない方がよかった?」


姉「ううん」


妹「そっか、よかった」ホッ


姉「いまの妹も、かなりペンギンぽいし」ボソッ


妹「……そう?」


姉「あれ、聞こえた?」


妹「うん」


姉「そういうことだ」


妹「……そっか」


姉「でも──地上ではあんなにかわいいのに、海に潜るとめっちゃ速くてかっこいいところが一番好きかな」


妹「ギャップ萌えってやつだ」


姉「そうそう、ギャップ萌え」


妹「萌えちゃうんだ」


姉「萌えちゃうの」


妹「よろこんでいい?」


姉「いいよ」


妹「やった」



姉「……そういえば、あれ、もう周り終えちゃった?」


妹「ほんとだ」


姉「時間めっちゃ過ぎてる」


妹「やば」


姉「すれちがったはずなんだけど、司書ちゃんと友ちゃんいたっけ?」


妹「いたいた」


姉「どこに?」


妹「カニがいたとこ。なんか二人の世界だったからスルーした」


姉「……妹、知ってた?」


妹「や、知らなかった」


姉「だよねだよね」


妹「でもお似合いな気がする」


姉「そうね」


妹「どうする? 二人のこと待ってる?」


姉「お邪魔してもよくないし、観覧車行っちゃおう」


妹「わかった」


姉「チケット見せれば無料で乗れるらしいよ」


妹「え、ほんと?」


姉「うん」


妹「三回くらい乗りたい」


姉「当然だけど二回目からはお金がかかりますぜ」


妹「思い出はプライスレス」ドヤァ


姉「たしかに」クスクス

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る