第9話




<唐揚げの美味しい居酒屋>



カラカラ

イラッシャイマセー



司書「ハイボールふたつと~」


司書「枝豆と軟骨唐揚げとサバ塩焼きで、姉さんは?」


姉「チーズ唐揚げと塩唐揚げ、それとフライドポテトでお願いしまーす」



ショウショウオマチクダサ~イ



司書「こうやって姉さんと二人で飲むの、ちょっと久しぶりな気がする」


姉「そうだっけ」


司書「ほら、前はみんなで~って感じだったし、その前も他の人いたし」


姉「あー確かに。三ヶ月ぶりくらい?」


司書「それくらいね」


姉「そいえばわたし家だとほとんど飲まないから、お酒自体が先月ぶりなんだよね」


司書「えー何のための一人暮らしよー」


姉「だってお酒は誰かと楽しく飲みたいじゃない」


司書「なるほどねぇー……だからみんなで行くと水ばっか飲むんだ」


姉「あれ気付いてた?」


司書「姉さんみんなの中でお酒弱いことになってるから」



オマタセシマシターハイボールデス

タダイマオリョウリオモチイタシマスネ



姉「なにそれ心外」グビ


司書「……ま、そんなに強くないし間違ってはないと思うよ」グビ


姉「司書ちゃんと二人のときくらいだよー、羽根伸ばして飲めるの」


司書「あーね、そうだよね」


姉「けっこうなー、みんなわたしにヘンなイメージ持ってるからなー」


司書「ふふふ、まあね」


司書「やさしくてかっこよくてなんでもできる王子さまな姉さん」


姉「……んー、司書ちゃんも高校の頃はわたしのことそう思ってたの? やっぱり?」


司書「オーラがあったよ、うん」


姉「いまは?」


司書「えー、いまは? ……なんていうかさぁー、フンイキ変わったじゃん」


姉「そうかなー」グビグビ


姉「あ、緑茶ハイお願いしまーす」


司書「こっちはおかわりで」


姉「肉寿司頼んじゃおうぜー」


司書「姉さんの奢りね?」


姉「ははは、ここはわたしが持とーう!」


司書「大丈夫? 一杯でハイになってない?」





<沖縄風料理屋>



姉「海ぶどううまー」パクパク


司書「こっちのラフテー食べる?」


姉「食べる食べるー」パクパク


司書「はいどうぞ、って言う前にもう食べてるし」


姉「司書ちゃんゴーヤチャンプルー食べよ?」


司書「自分で頼みなさい」


姉「おにーさんお代わりとゴーヤチャンプルーお願いしまーす」


姉「ガゼウニ! ホヤ刺し! 司書ちゃん食べるー?」


司書「うん」


姉「お代わりは?」


司書「まだ飲み切ってないからいいや」


姉「どうしたの司書ちゃん。今日ペース遅くない?」


司書「明日予定があるから、あんまり深酔いはできないの」


姉「もしかして、でえと?」ニヤニヤ


司書「うん。まあ、デートといえばデート」


姉「……はあっ? 司書ちゃん彼氏居たっけ知らない知らなかったマジで?」


司書「彼氏じゃないよ」


姉「あっそうなの」


司書「ちょっと気になってる子。……いや、気になられてる? どっちも? みたいな」


姉「子、ってことは年下なの」


司書「うん」


姉「なーるほどぉー」ニヤニヤ


司書「かわいい子よ」


姉「へえー、いいねー」


司書「姉さんは?」


姉「んー、明日? 明日は午後まで寝て、ちょっと出掛けようかなーとか思ったり思わなかったり」


司書「じゃなくて」


姉「うん?」


司書「好きな人とか恋人とか」


姉「ああ、それはまったく」ケラケラ


司書「作る気も?」


姉「ないかなぁー」


司書「ふうん」


姉「あんまりそういうの興味ないんだよね」


司書「シスコンだから?」


姉「まあ……うーん、いやそれは違うけど」


司書「動揺した」


姉「してない」


司書「全部知ってて質問したわたしが悪い気もする」


姉「……」ジッ


司書「睨まないでよ怖いなあ」





<行きつけのバー>



司書「バーテンちゃん、伊達で」


姉「わたし白州でー」


バーテン「はいはーい」


司書「姉さんのは薄くしてね」


バーテン「ふふふ、いつもの感じね~」


バーテン「二人とも、軽く食べてく?」


司書「んーどうしようね、姉さん」


姉「……あれー、この前のー」


バーテン「キムチチャーハン?」


姉「そそ、司書ちゃん半分しよー」


司書「うん。わたしは牛スジ煮込みもね」


バーテン「……そうねえ、材料はあるけど、ちょっと時間かかるかなーって」


姉「時間ならたっぷり」グー


司書「右に同じく」


バーテン「じゃあ先にお酒出しとくね~」ゴトゴト



姉「……」グビ


司書「……」


姉「……」グビグビ


司書「……」チラッ


姉「……なによ」


司書「いやべつに」


姉「…………んー、あつい」プチプチ


バーテン「エアコン下げよっか?」


姉「あーいや、いいよ」


司書「……」


姉「……」ノビー


司書「……」


姉「……」


司書「……なんていうか、さ」


姉「うん?」


司書「いまの姉さんは、すっごくかわいい系になったよねぇ」


姉「……んー?」


司書「昔の姉さんはやっぱり、おっきくて、髪も短くて、すごく真面目な感じがしてさあ」


姉「えー」


司書「同級生だけじゃなく後輩からもカッコイイカッコイイってモテててさー」


バーテン「えー、なにそれ気になる~」


司書「写真見る?」


バーテン「みるみる、めっちゃみる」


姉「なんでそんなの持ってんのよ」


司書「姉さんのカッコイイ写真を撮ってる子がいて」


姉「……え、やだめっちゃこわい。てか初耳……誰?」


司書「るかちゃん」


姉「……」


司書「ほらほらあの、陸上部で、けっこー背が低くて、ちょっとツリ目の」


姉「……る、るかちゃんってあのるかちゃん?」


司書「そそ。バーテンちゃんこれこれ」スッ


バーテン「どれどれ? ……わわっ、かっこい~」


司書「でしょでしょ」


バーテン「モテるのも納得ね」


姉「……ね、待って司書ちゃん。わたしずっとるかちゃんに嫌われてるかと思ってたんだけど」


司書「……えー?」


姉「いや、あの、いきなりキッって睨まれたりとか、挨拶したら無視されたりとか」


司書「はあ、姉さんそれはさぁ──」


バーテン「んふふ」


司書「……まあいいや」


姉「え」


司書「バーテンちゃんお代わり~」


姉「えっえっ」


バーテン「姉ちゃんもお代わりいる?」


姉「いる。けど、司書ちゃん『まあいいや』ってどゆこと?」


司書「今度新年に集まるとき、るかちゃんも来るからそんときに聞いてみれば?」


姉「えっ、何を?」


司書「あーバーテンちゃんチョコもらえる?」


姉「ねぇー司書ちゃん!」





姉「"かわいい"はね、わかるよ。事実かわいいし、昔からずっと」


司書「うん」


姉「かわいいっては、言えるんだよねぇ。ふつうに、ふっつーにさあ」


司書「うん」


姉「……だけどさあ、"かっこいい"は何か違うじゃん……、結構違うじゃん……」


司書「えー、違うかな?」


姉「わたしが言われるのはいいの」


司書「あーはいはい」


姉「ほかの人に言われてるのもいいの。全然いいの。別に気にしてないし、本人にじゃなくてわたしに言ってくるのはよくわかんないけど」


姉「でもわたしが思っちゃうのはね、うん…………ね? わかるでしょ?」


司書「わたしに共感を求めないでよ」


姉「わかってよーっ……!」ジワッ


司書「めんどくさいわぁー」




(二時間後)



姉「…………わらひはぁ、べっつにたのしいこととか、なんもなくてぇ」グスグス


司書「……はいはい」


姉「……やりたいこととか、ほしいものとかぁ、なんもないからぁ…………」グスグス


司書「……」


姉「それなら、みんなが求めてくれるような、わらひの方がいいんじゃないかってぇ……」


司書「なるほどねー……」


姉「……」グッグッ


司書「……」


姉「……」


司書「……」


姉「……ししょちゃんのばーか!」プハァ!


司書「ええ? いきなりどうしたのよ」


姉「……わらひがぁ! ……すっごくどうしようもなくて……、ヘンなことばっかり考えてて、そういうことに興味ないこと知ってるくせにぃー!」


司書「あー、ロリコンなとことか?」


姉「わらひはろりこんでもしすこんでもないから!」


司書「まあそうね。ロリって感じでもないか」


姉「…………ばーか、ばーかばーか」


司書「……大丈夫? 横になる?」


姉「……うん」ダラー


司書「……もー、吐いたりしないでよねえ」サスリサスリ


姉「……うん」


司書「……」


姉「……うん」


司書「聞いてないのね」


姉「……」


司書「……」


姉「……」スゥスゥ


司書「んー寝るの早いなー」ポンポン


バーテン「そのまましばらく寝かせといたら?」


司書「そうするつもり」


バーテン「司書ちゃんおかわりいる?」


司書「水でいいよ」


バーテン「はーいこれ。……ふふ、姉ちゃんの寝顔かわいい~」


司書「そうね」


バーテン「そういえば、さっきの話だけどぉ~、司書ちゃんは姉ちゃんの追っかけはしてなかったの?」


司書「え、してないしてない」ブンブン


バーテン「そうなの?」


司書「そもそもの関わりが薄かったしねぇー、会ったら二、三言話す程度で、まあかっこいい子がいるなあって感じで」


バーテン「同じ大学だったのよね」


司書「そそ。同期で教育大行ったのはわたしらだけ」


バーテン「ふうん、でも司書ちゃんは教師にはならなかったんだ」


司書「まあいちおう、資格だけ取ってね……」


バーテン「へぇ~、もともとなりたかったの?」


司書「いや、わたしも教員志望だったんだけどね、いろいろあるじゃない」


バーテン「いろいろねぇ」


バーテン「……あ、前から気になってたこと聞いてもいい?」


司書「いいよ」


バーテン「司書ちゃんって~、そっちじゃない?」


司書「うん」


バーテン「姉ちゃんのことは、どうも思ってないの?」


司書「思ってないよ」


バーテン「え~?」


司書「まったく、1ミリも」


バーテン「ふぅ~~~ん?」


司書「なんとも思ってないよ」


バーテン「ほんとにぃー?」ニヤニヤ


司書「わたしはね、かわいい子が好きなの。高校のときの姉さんみたいなタイプは趣味じゃなかったの」


バーテン「……なるほどぉー、"なかった"ねぇ~」


司書「揚げ足取らないでよ」


バーテン「でもでも? ほんとのこと言っちゃうと?」


司書「……えー、ほんとのこと?」


バーテン「姉ちゃん寝てるし大丈夫」


姉「……」スゥスゥ


司書「……」


バーテン「……」ニコニコ


司書「……」


バーテン「……」ニコニコ


司書「……はあ」


バーテン「ふふふ」


司書「……実際言うと、わりと好み……ううんかなり好み、おこがましいけど、その場に居るだけでかわいいし」


バーテン「へぇ~」ニコニコ


司書「でもそれは、まあ、ムラっとくるタイプのかわいいなのよね」


バーテン「え~、なにそれ」


司書「バーテンちゃんもわかるでしょ」


バーテン「……うーん?」


司書「わかんないフリしないでよ既婚者」


バーテン「あは」


司書「腹立つ~」


バーテン「でもでもでも、姉ちゃんもそっちなんでしょ~?」


司書「……あーちがうちがう」ブンブン


バーテン「え? そうなの? まえに彼氏はいらないって言ってたよね」


司書「彼氏(も彼女も)いらないだと思う」


バーテン「ふうん」


司書「なんていうのかな……、Aセクっぽいんだよねこの子、話聞いてる感じだと」


バーテン「あ~、つまりどっちでもないってこと?」


司書「うんまあ平たく言えば」


バーテン「……なるほどね」


司書「"ぽい"ってのがポイントなんだけどね」


バーテン「……」


司書「……」


バーテン「……」


司書「……まあもし恋とか愛とかに点数付けるとしたら、一人に対して一億点で、他の人は上限でも十点とか、そんな感じなんだよ、多分」


バーテン「なら愛がないってわけでもないのね」


司書「……んー、いや、うーん……、一億点がずっと近くにいたら、周りなんて霞むじゃない?」


バーテン「そうね」


司書「だったらさぁ──」



ブーッブーッ

ブーッブーッ



バーテン「司書ちゃん?」


司書「いや?」


バーテン「……あ、姉ちゃんの胸ポケ光ってる」


司書「おお」スッ



司書「……あー、バーテンちゃん。電話出てもいい?」


バーテン「いいよーぜんぜん」


司書「わるいね」


バーテン「でも勝手に出ていいの?」


司書「……まー、寝てるしいいんじゃない」


バーテン「あら」


司書「わたしじゃ酔いつぶれた姉さんは運べん、めんどくさい」


バーテン「……?」


司書「それにこの際来てもらった方が早いし」


バーテン「……何のこと?」


司書「一億点のこと」





カララッ

カランコロン



司書「お、来た来た」


バーテン「いらっしゃ────おおー、これは」


司書「わかる~?」


バーテン「わかる」



妹「なんですか」


司書「なんでもないです」


バーテン「……やばいわ~」


妹「司書さん、おねえちゃんは?」


司書「ここ」ユビサシ


姉「…………ムニャムニャ」


妹「ごめんなさい、いつもおねえちゃんがご迷惑を」ペコリ


司書「や、迷惑はかけられてないない。姉さん寝てるだけ」


バーテン「お嬢ちゃん一杯飲んでく?」


妹「わたし未成年です」


バーテン「そうよね、大人っぽいね~」


妹「よく言われます」


バーテン「高校何年生?」


妹「二年生です」


バーテン「ほおー……。てゆーか、司書ちゃん未成年連れ出していいの~? ガッツリ深夜よ?」


司書「姉さんの家に来てたみたいだし、いいかなって思ってね」


バーテン「いやダメでしょー……あ、これ水どうぞ」


妹「……ど、どうもありがとうございます」


司書「帰り送ってくからもーまんたい」


妹「あっ、その、わたしだけでも大丈夫ですよ」


司書「んやー、わたしも帰るの」


バーテン「司書ちゃんお会計しちゃう?」


司書「うん」


妹「おねえちゃんの分は、」


司書「いや、いいよ。ここわたし持ちって約束してたから」


司書「姉さん、起きて」ユサユサ


姉「……」スゥスゥ


妹「おねえちゃん、帰るよ」グイッ


バーテン「わ、力持ち!」


司書「わたしの見込み通り」


バーテン「遺伝かしら」クスクス


司書「じゃ、バーテンちゃんまたね」


バーテン「またね~、妹ちゃんも」フリフリ


妹「……」ペコリ





妹「……」テクテク


司書「……」テクテク


妹「……」テクテク


司書「……」テクテク



妹「あの、司書さん」


司書「なーに?」


妹「このまえ教えてくれた本、面白かったです」


司書「それはよかった」


妹「はい。友達に貸したら、その友達も面白かったって言ってました」


司書「……あー」


妹「……?」


司書「や、なんでもない。姉さんも面白いって言ってたよ」


妹「ああいう系統の好きですよね」


司書「この子わりとロマンチストなタイプなんだよね」ミョン


姉「……プヒャ」


司書「ダメな大人だなーほんと」


妹「あはは、でも昔からそうですよ」


司書「家族の前だとそうなのね」


妹「はい」ニコッ


司書「……てかさあ、今日の、いや昨日の昼休みさ、告白されてたでしょ」


妹「……あー、見てたんですか」


司書「たまたまね」


妹「……なんていうか、告白ってよりは、好きって言われただけというか」


司書「わざわざ中庭で?」


妹「まあ……はい」


司書「それを告白されたって言うんだぜー妹ちゃん」


妹「……はあ」


司書「ちなみに姉さんにはこのこと言ってないよ」


妹「……」ホッ


司書「心の声が漏れてる」


妹「……漏れてないです」


司書「じゃあそういうことにしといてあげる」ケラケラ


妹「……」

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