第6話




<キッチン>


妹「じゅうそう、プリーズ」


姉「へいへい」


妹「いれる」パッパッ


姉「レンジにセット」バッ


妹「かねつ!」



ピピピッ、ブーー



姉「次はわたしが棚の掃除するから、妹は」


妹「シンク!」


姉「はいこれまほうのこな」


妹「ねーちゃスマホ見してー」


姉「ん、あとゴム手袋もつけてね」


妹「うん」




<バスルーム>


姉「お風呂のタイルを掃除する前に」


妹「まえに?」


姉「カーテンを踏み洗いしましょう」


妹「おー」


姉「わたしはジーンズだから、ここはスカートの妹にお願いしたいところですが」


妹「がってんしょうち!」


姉「元気がいいのは良いことだ」ウンウン



妹「……」ピラッ


姉「……あ」


妹「……」フミフミ


姉「……」ジー


妹「……」フミフミフミフミ


姉「……」ジィー


妹「…………」ピタッ


姉「…………」ボケー


妹「……ねーちゃ?」


姉「……! えっ、なに?」


妹「なんでもない」プチプチ


姉「……服脱ぐの?」


妹「さっき外でたらあせかいたし」シュル


姉「……へえ」


妹「めくっててもちょっと濡れた」スルッ


姉「あ、そうなのね」


妹「はいねーちゃ、これ洗濯カゴに入れて」ポイッ


姉「うん」


妹「きがえ」


姉「ワンピース?」


妹「ねーちゃのすきなやつで」



ガラッ、バタン



姉「……」


姉「……」


姉「…………」





姉「いろいろ放置してる間に、二人で手分けして掃き掃除をやりましょう」


妹「いっしょにやらないの?」


姉「わたしは外をやってくるから、妹は二階と階段ね」


妹「おそとはべつにいいっておかーさん言ってたけど」


姉「いまのわたしは外の風に当たりたい気分なのさ」


妹「キザなねーちゃ」


姉「褒めても何も出ないよ」


妹「ほめてないし」




<再びバスルーム>


シャァァァァア



姉「ちょっと疲れてきた?」


妹「んーん」


姉「そう、なら良かった」


妹「結局ねーちゃがいろいろやってくれてるから」


姉「始めると夢中になるタイプなのね」


妹「そうじたのしいからね」


姉「うんうん──ていうか、ママンすごいね」


妹「なんで?」


姉「お風呂も洗面所もカビが全くないし、シンクとかも汚れてない」


妹「おかーさんがまえに言ってた」


姉「なんて?」


妹「汚れてるのがいやだから、見つけたらすぐにそうじするって」


姉「忙しいのに」


妹「ねーちゃもわたしもおへや汚さないから、さいこーの娘って言ってた」


姉「それは妹さまのおかげ」


妹「あまりほめるでない、ほっぺがおちてしまう」


姉「あーほんとだ」ムニィー


妹「……」


姉「めっちゃやわらかい」ムニムニ


妹「……」


姉「……」ムニムニムニムニ


妹「……」


姉「……」ムニムニムニムニムニムニムニムニ


妹「……」


姉「堪能した」


妹「どういたしまして」



シャアアアア

ゴロゴロゴロ



妹「お」


姉「お?」


妹「鏡がくもってる」


姉「そうね」


妹「ふむ」


姉「……?」


妹「……」カキカキ



『りんご』



姉「りんご?」


妹「ねーちゃしりとりしよー」


姉「いいけど、ふつー絵しりとりじゃない?」


妹「えごころなしのわたし」


姉「なるほど?」カキカキ



『ごりら』



妹「んへへ」カキカキ



『らふらんす』


『すいか』


『からす』


『すりらんか』


『かおす』



姉「攻められてるなー」


妹「……」ウムムム



『するー』


『るす』


『すたみな』


『なす』


『すかーと』


『とれーす』


『すたーばっくす』


『すいす』



姉「もう書けないね」


妹「ねー」


姉「消化不良感あるなー」


妹「ねー」


姉「んー……、ならここは一旦掃除しちゃって、あっちで続きをしよう」


妹「ねーちゃが『す』からね」


姉「おーおー」



姉「そういえば妹、最近わたしのシャンプー使ってるでしょ」


妹「だめ?」


姉「だめじゃないよ」


妹「じつはボディーソープも使ってるって言ったら?」


姉「あれ高いのにーって言う」


妹「だってだって、あれ使うとね、ずっとねーちゃに包まれてるみたいな気持ちになるの」


姉「……」ギュッ


妹「……」


姉「……」ギューー


妹「……ねーちゃ?」


姉「……こんな感じ?」


妹「う、うん」ビクッ


姉「……」


妹「……」


姉「……よく考えたらいつも抱きつかれる側だったような」パッ


妹「あっ」


姉「さてと、リビングに行こう」スタスタスタ


妹「……」




<リビング>



姉「やっぱり窓が曇ってる」


妹「うん」


姉「でもしりとりに使うのは半分だけね」


妹「わかった」


姉「そんで、『す』からだっけ」カキ



『す



妹「あ、ねーちゃ」トントン


姉「なした」


妹「ルールついかしよ」


姉「というと?」


妹「これからはおくちチャック、しゃべってもまけ」


姉「ふうん?」


妹「ではどうぞー」


姉「はいはーい」



『すまほ』


『ほーす』


『すたーずあんどすとらいぷす』


『すとれす』


『すたみなたろう』


『うす』



姉「……」ウンウン


妹「……」ウムムム



『すなどけい』


『いす』


『すらっくす』


『すてるす』


『すぱいす』


『すふぃんくす』



『すき



妹「……」チラッ


姉「……」ピタッ


妹「……」パアアアア


姉「……」フム、カキカキ



『すきま』



妹「……」ドヨーン



『まうす』


『すかいつりー』


『りす』


『すみ』


『みす』


『すしざんまい』


『いるす』



妹「……」チラッ


姉「……」ナムナム


妹「……」ハァーー



『すまいる』


『るねさんす』


『すうがく』


『くものす』


『すいようび』


『びーえす』


『すぴーど』


『どれす』



姉「……」ピタッ


妹「……」


姉「……」ジトー


妹「……」キョトン


姉「……」フムー



『すき』



妹「……!」ピクッ


姉「……」ニヨニヨ


妹「……」


妹「……」


妹「……」クイクイ


姉「……?」フイッ



妹「……」チュー


姉「」



姉「──はあっ? え、えっえっ……?」ジタバタ


妹「はいしゃべったからねーちゃのまけー」ニコニコ


姉「いやいやいやいや」


妹「どうしたの?」


姉「どうしたのって、その、口に」


妹「え?」キョトン


姉「…………あのね」


妹「なに?」シラー


姉「……ま、まあいいやぜんぜんよくないけど。でも、最後に書いてたのはわたしだから」


妹「書けなくなったらまけなんて言ってないー」


姉「そうじゃなくて、妹はわたしにしりとり返してない」


妹「なにそれ」


姉「喋った喋ってないの前に、しりとりは『ん』で終わる言葉を使うか返せなくなったら負けじゃん」


妹「かえしたし」


姉「え?」


妹「きす」


姉「……」


妹「……」


姉「……」


妹「……」


姉「……あー、まあ、それはそうかも」


妹「でしょー」ドヤァ


姉「わたしの負けだ」


妹「ふふん」ドヤドヤ


姉「でも、口はだめだよ?」


妹「どうして?」


姉「唇は安売りするものじゃないの」


妹「そうなの」


姉「そうなのよ」


妹「ねーちゃにしかしないのに」


姉「このマセガキめー」


妹「うひひ」ケラケラ


妹「……あ、ねーちゃ、罰ゲーム」


姉「そんな約束してないけど、なに?」


妹「わたしのすきなところを五個」


姉「罰じゃないじゃん」


妹「いいからー」


姉「……えー、逆に嫌いなとこひとつもないんだけど」


妹「うれしいけど、えー」


姉「まって、掃除してる間に考えるね」





妹「ねーちゃのすきなところは~」フキフキ


姉「んー?」


妹「やさしい」キュッキュ


妹「いっしょにいてたのしい」


妹「ほめてくれる」


妹「わたしのわがまま聞いてくれる」ジャー


妹「でも、いちばんは~」


姉「うん」


妹「かわいいところ!」





姉「ええっと、まずね、がんばりやさんなところ」


妹「おー」


姉「次は、……元気さ?」


妹「おー」


姉「反応薄いけどご不満かね」


妹「めっそうもない」


姉「そ。あと、指が好き」


妹「ゆび?」


姉「うん」ニギッ


妹「なぞ」


姉「いいもの持ってる」ニギニギ


妹「へー」


姉「これは日本代表狙えるよ」


妹「いみわかんないし」


姉「いつかわかる日が来るさ」


妹「いっしょー来ないきがする」


姉「まあまあ。で、四つ目は抱き心地が良いところ」


妹「ねーちゃわたしを足の間におくのすきだもんねー」


姉「わたしの腕は妹を抱くつくりになってるからね」


妹「あはは、なにそれー」ケタケタ


姉「掃除終わったし、ゲームでもする?」


妹「する!」


妹「でもそのまえに、いちばんはー?」


姉「五個目じゃなくて?」


妹「最後はいちばんじゃないの?」


姉「わたしはショートケーキのイチゴを最初に食べるタイプ」


妹「しってるけど」


姉「……んー、妹の、一番好きなところ」


妹「ないの?」


姉「いや、あるにはある、けど……」


妹「なに」


姉「……」


妹「……」


姉「…………何言っても引かない?」


妹「う、うん」


姉「機嫌損なわない?」


妹「……え? うん」


姉「ぜったいぜったい、ぜーーったいに、だよ?」


妹「え、えっ、……えと、うん」


姉「……」


妹「……」


姉「妹の、一番好きなところは──」


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