第34話:恣意的な自己犠牲

「待って、まだ、まだ無理っ!」

「こうすりゃいいだろ」

「はぁっ!!」


 杞柳さんはオレの先走りを指にとり自分のものに塗りつけ、さらにオレの口に指を突っ込んで唾液をオレの入り口に染みこませた。


「バックで行くぞ」


 軽々とオレの身体を四つん這いにさせた杞柳さんのものが、オレの入り口にあてがわれる。


「あ、ああ!!」

「くっそ、いつにも増してきついな。力抜け」


 そう言って杞柳さんはオレのものをまた掴んでゆるゆるとしごきだした。


「はぁ、あああぁ!」


 同時に杞柳さんのものがゆっくりと入ってくるのが分かった。そしてドンッと一気に奥まで貫かれた。


「はっ——!!」

「いいんだろ? おまえここ好きだもんな?」


 耳許で囁かれると恥辱でますます興奮する。思わず勝手に腰が揺れる。


「あ、あ、奥突いて! 一番奥! 知ってる、くせに!!」

「突いたらおまえすぐイくだろ、したら俺が困るんだよ」

「はぁん!」


 これだからこの人とのセックスは中毒性が高いんだ。


「言いたいことがあれば言えよ、聞いてやるから」


 不意に優しさみたいな香りを漂わせながら、同時に冷徹な声で杞柳さんが言う。


「あ、あぁん! もっと、もっとして欲しい! 激し、くっ!! オレを壊してください!! 壊し、てっ!! ぁはあああぁ!!!」


 結局杞柳さんが満足するまで、オレは四回イかされた。


 でもオレはこの人をセフレとは思っていない。そもそもオレにセフレはいない。杞柳さんは、オレが『取り込んできた』音の色をより鮮やかにしてくれるツールみたいなものだ。


 そんな風に思う方がセフレより失礼なのかもしれないが、オレにとっては音楽が最優先事項。オレ自身の身体だってどうだっていい。


 オレは美しく音楽を作って歌えればそれでいい。

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