第32話:HOLE IN MY SOUL

 彩瀬さんと別れてホテルを出ると、奇妙な孤独感に全身を包まれた。誰かの肌が欲しい。頭の軽い女のように喚いて、子宮でものを考えるような痴態を晒せる相手がいい。神谷は論外だ。


 ホテルから駅方面に歩きながら、電柱を背にスマホを弄る。ワンナイト・スタンドした相手ならいくらでも出てくる。しかし今のオレはどうかしている。


 ひとり、候補を見つけた。

 オレはすぐにその人物にコールする。


『もしもし? いおい?』

杞柳きりゅうさん、今空いてますか?」

『家にいる。来いよ』


 了承し通話を切る。タクシーを捕まえて、このエリアからそう遠くない杞柳はじめという男の自宅兼アトリエに直行した。



「まーた随分さかったツラしてんなぁ」


 杞柳さんは玄関を開けるなりそう言った。見透かされて悔しい思いもあるが、事実なんだから仕方がない。


「先ベッド行ってろ。手ぇ洗ってから行く」

「はい」


 オレは入室し、様々な素材の様々な身体のパーツで一杯の、かつ塗料の独特の香りで意識を失いそうな部屋を一直線に進み、奥の寝室に向かう。


 杞柳一は人形作りだ。ドールといってもいいし、何ならラブドールでもいい。こけしや雛人形のような古典的なものから、セクシャルな用途の人形も作る職人で、以前バンドのミュージック・ビデオの撮影で知り合ってからの付き合いだ。


 年は三十代後半。長身でたくましい。そして性行為はねちっこい。


「何だ、脱いでないのか。脱がして欲しい気分なのか?」

「別にどちらでも」

「じゃあ脱げよ」


 黒目がちだが鋭い視線に射貫かれ、オレは羞恥心まみれになりながら服を一枚一枚脱いでいった。

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