第5話



 それから特に何事もなく順調に掃除と片付けをし、お盆の頃には山小屋の中はすっかり綺麗になっていた。


 あとは小屋の回りの庭を整備するだけという時だった。


「うわっ、亮太やべえ。台風くるらしいぞ」


「え、マジか」


 俺たちは雨戸を閉めたりガラス窓を補強したりして台風に備えた。


 天気予報のとおり夕方から雨が強くなり、夜には風の音がゴウゴウと山小屋の中に鳴り響いていた。


「片瀬、今日そっちで一緒に寝てもいいか?」


 普段は隣の部屋で寝ていた亮太が俺の部屋に入ってきてそう言った。


「お、おう。なんだ亮太、怖いのか?」


 暗い表情の亮太は俺の布団にもぐり込んできた。


 やべえ……近い。


「俺ダメなんだよ。雷とかこんな風の音とか」


「ああ、結構ここ、音がスゴいよな」


「うん」


 亮太は俺の胸のあたりに顔をうずめた。


 甘え上手かよ。


 何だよこの状況。


 クッソ。


 マジでやべえ。


 亮太の頭が俺の目の前にある。


 亮太のにおいがもろに俺の脳を刺激する。


「ちょ、ちょっとお前、あんまくっつくなよ」


 いや。


 ずっとこのままでもいい。


「ごめん、もう少しだけ」


 亮太の息が俺の首すじにかかる。


「仕方ねえな」


 俺は抱きしめるようにして亮太の頭に腕をまわした。


 亮太の柔らかい髪の毛を優しく撫でた。


 ああ……。


 台風よ、ありがとう。




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