第4話



 それから一週間くらいはおばさん家から山小屋に通って寝泊まりできる場所を作り、食料と荷物を持って拠点を山小屋に移すことにした。


 今日からいよいよ山で亮太と二人きりだ。


 亮太に俺の気持ちがバレないようにしないとな。


 耐えろ、俺。


「食べ物が失くなったらいつでも戻ってきてね。何かあったらすぐに連絡するのよ」


「わかってるって、おばちゃん」


「片瀬くんも気をつけてね」


「はい。ありがとうございます」


 心配そうな顔をしているおばさんに見送られながら俺たちはおばさんの家をあとにした。



 山小屋に着いて大量の荷物を下ろしてから俺は亮太に聞いた。


「なあ、ここ片付けてどうすんの? 誰か住むのか?」


「いや。売りに出すんだって。おばちゃんも来られないし、うちの親も出張とか転勤が多いから使わないって」


「ふーん。なんかもったいねえな」


「な。こんな隠れ家あったら便利だよな」


「亮太が貰うわけにはいかねえの?」


「ああ、それも考えたんだけどさ。またうち転勤になるかもしんねえし」


「は? マジで?」


「うん。もうすぐ三年になるだろ。そろそろかもなってこないだ親父が言ってた」


「なんだよそれ……」


「はは、そんな顔すんなよ。まだ決まったわけじゃねえし」


「でも……」


「仕方ねえよな、こればっかりは」


 俺は目の前が真っ暗になった気がした。


 亮太のいない生活なんて考えたこともなかった。


 亮太がもし転勤で引っ越してしまったら俺はいったいどうすればいいんだ?


 悶々とした心のまま、ずるずると時間だけが過ぎていった。




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