6-4

 前をラースとリカルドが歩き、真ん中にエメとアラン、ニコライとエミルがそれに続いて歩く。

 きょろきょろといろんな屋台や飾りに目移りするエメに、アランが得意げに胸を張った。

「すごいだろ? なんてったって、公爵家が主催だからな。でもちゃんと前を見て歩けよな」

 エメはこくこくと頷き、しかしその視線はいろんな方向へと巡らされる。アランは呆れつつ、その都度エメの手を引いた。エメは庶民のような格好をしているが、こういった場所に必ず湧くのがスリだ。はぐれるより危険なものだ。

後ろに張り付いているニコライも、時々列から離れそうになるエメの肩に手を遣り軌道修正をする。

「お前、祭りは初めてなのか?」

 少しだけ呆れをはらんだ声で言うアランに、エメは頷いた。それならはしゃいでも無理はない、とアランは思った。

「坊ちゃん、気になる屋台はあるっスか?」

 ニコライが問いかける。エメはいろんな屋台を見ているが、収穫祭というだけあって、そのほとんどが食べ物なので寄る気にならないようだ。

 リカルドと話をしながら、ラースは時々エメを見遣る。エメはアランに手や肩を引かれ、なんとか人混みに紛れずに済んでいる。自分が抱えているのが一番安全なのだろうが、友達と歩きたいと思うのも当然だろう。それを引き離すのはさすがに気が引ける。

 リカルドと会ったことで、図らずも彼らは目立つ結果となってしまった。公爵家の跡取りであるリカルドの顔を知らない者はこの街にはほとんどいない。時々掛けられる声に軽く手を振って応えるリカルドに、ラースは小さく息をついた。せっかく目立たない格好をして来たと言うのに。アランもなかなかに目を引く。

 人の波は不規則だ。ラースはリカルドと話しながら防波堤をしているが、アランが次第に波を避けきれなくなってきている。エメを抱えたほうがいいかもしれない、と考えていた矢先、アランの鋭い声が聞こえた。

「エメ!」

 その声に振り向くと、アランが人の波の中に手を伸ばすのを、ニコライが慌てて引き戻している。その横にあるはずのエメの姿がなかった。

「自分が」

 波の中へ身を投じようとしていたアランをエミルに引き渡し、ニコライが人波の中に素早い動きで移動して行く。

「大変だ」と、リカルド。「手分けして探そう」

「リカルド様はラースさんと一緒にいてください」エミルが言う。「アラン様は僕が。噴水広場で落ち合いましょう」

「わかった」

 ラースとリカルドは頷き、アランが手を伸ばしていた方向に駆け出した。エミルはアランの肩を抱き反対方向へ向かう。人混みとは言っても、隙間がないわけではない。おそらくエメはどこかの隙間に入り込んでいるだろう。

 やはり自分が抱えておくべきだった、とラースは考えた。アランのせいではない。自分の見立てが甘かったのだ。


 エメはどんどん遠ざかるアランに必死に手を伸ばすが、人の波に押されて離れていくばかりだった。なんとか隙間を見つけても、すぐに背後から誰かにぶつかられる。自分はこんなにもどんくさかったのか、と涙を堪えた。

「エメ!」

 ラースの声が聞こえてくる。しかし、声の出ない自分ではその呼び掛けに応えることができない。もどかしい。声が出せればせめて位置くらいは報せられるのに。

 きょろきょろしているうちに、方角がわからなくなってしまう。すると、いかにも迷子然としていたためか、どうしたの、と声を掛けてくる者もいた。エメが喋れないでいると、困ったように辺りを見渡す。

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