6-1

 目が覚めた。


 よく知っている天井、景色、自分の部屋なんだけど、違うもののように感じられた。


 凍てついた朝方の空気を一気に肺に取り込むと、チクリと肺が痛んだ。


 でも、心の痛さに比べればそれは大したことはなくて、ズキズキと締め付けられるように胸は痛む。


「やすみ……」


 夢を見た。

 夢と言っても寝ている時に見る方の夢。


 夢の中で、いつもの調子でやすみは笑っていた。カラカラと笑っていた。


 心の表面はズキズキと痛いのに、中身の方はぽっかりと穴が空いてしまって空虚だった。


 やすみ母からやすみの死を聞かされてから一週間、俺はまだ受け入れる事ができずにいた。


 まだやすみは生きている。そんな気がしてたならないんだ。


 やすみと過ごした場所に行けば、いつもと変わらぬ調子で携帯を触って、俺を見たら笑いかけてくれる気すらする。


 でも、その確認をして、やすみが居なかった時の事を想像したら怖くて、とても実行には移せなかった。


 携帯電話を手にとって、メッセージアプリを開いてみても、やすみからのメッセージは届いていない。


 だけど他に新着メッセージが入っていたんだ。


 送信者は泰明で、


『たまにはキャッチボールでもしないか?』


 気乗りしなかった。

 返信しないで、そのままスリープさせてベットの上に放り投げた。



 あれから毎日、泰明はやって来る。


 俺の事情も知らないくせに。


 コンコンと部屋の扉をノックする音。


「涼?お母さんもう仕事に行くからね。朝ごはんはテーブルの上、昼御飯は冷蔵庫の中に閉まってあるから食べるとき温めてね」


「……」



 返事はしなかった。


 そのかわりに頭から布団を被り、瞳を閉じた。


 やすみに会うために……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る