会話



 男は頭を動かし、脳漿を垂れ流しながら、自分に刺さる矢を見つめた。余り驚く事ではなかった。ゆっくりと頭蓋骨を削っていく音は想像よりも煩いものじゃないらしく、グレネードよりはマシだと思いながら、男は死んだ。


 「鹿谷、まだ生きてるか?」


 青年は瞼をピクつかせ、返事をした。クロスボウを持った少女は寝巻き姿から着替えたばかりのようで、無地の白いTシャツを雑に着ている。


 「それ….下は何か履いてるのか….」

 「….持ち上げてやる、体を無理に動かそうとするなよ」


 腰を持って担ごうと少女はしたが、大きな図体のせいもあってなかなか動かない。


 「何キロだ?」

 「..およそ100キロ」

 「そりゃ動かない訳だな」

 「….山井は死んだ」

 「知ってる」

 「……最期に一言」

 「….」

 「……..」

 「言えよ! なんか!」

 「好きだ」

 「う、うん」

 「あ、ちょっと待て、まだ全然喋れる。取り敢えず救急車を呼んでくれ」


 少女はスマートフォンをシャツの裏から取り出し、電話を掛けた。


 「え、今どうやってスマホ出した?」

 「ここの裏地の部分に縫い付けてあるんだよ、ポケットが」

 「便利だな」

 「まあ、そうだな」


 そのまま、青年は動かなくなった。瓦礫だらけの部屋に響く音は消えてなくなった。

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