第39話 バスに乗って……その1

「夕べ、眠れずに、泣いていたんだろ~♪ 彼からの電話、待ち続けて~♪」


 フィールドワーク当日。

 俺はバス内の最前列・補助席で後ろを見渡す様に座っていた。そう、スケジュール通り、ギター演奏で移動時間の場をつなぐ為である。うむ、歌い出し及び演奏となかなかに良い調子だ。


「テーブルの向こうで君は笑うけど、ひとみ縁取ふちどる、悲しみの影~♪」


「ちょっと、安藤君! それ、絶対遠足向けじゃないやつ!」(舘林)


 ある程度歌ったところで、生徒会長の舘林さんが俺のメロディを阻む。なんだ、これからサビに向かっていくというのに。


「なんで止めるんですか、舘林さん」


「安藤君、あなたねぇ……もう少し選曲というものがあるでしょう」(舘林)


「なんで、よりによって浜田省吾なんだよ」(三科)


「世代……ってわけではなさそうですものね」(結原)


 前列に座る、引率の教師たちもどこか首をかしげている様子。


「そんなにおかしいですか? 盛り上がる歌といえば、これだと教わったんですが」


 途端、バス内のメンツが一斉に高江洲の方を見やる。


「いや、だってよ! 浜省、盛り上がらないか?」(高江洲)


 高江洲は慌てて弁解をはかる。どうやら、この男の歌センスを疑ってかかるべきだったようだ。


「ったく、ほんとに2年A組の人たちときたら……」(舘林)


「なんだよ、文句言うなら会長がなんかやれよ」(高江洲)


「何ですって! この高貴な私に宴会芸を押し付けるの!?」(舘林)


「宴会芸じゃなくて、レクリエーションだよ」(高江洲)


「まぁまぁ、生徒会長も高江洲も落ち着いて。遠足は始まったばかりなわけだし」(南田)


 険悪な雰囲気に、すかさず副会長の南田がクッション役をこなす。


「生徒会長、努力したアンドレの顔もありますし、ここはあまり感情的にならず」(南田)


「ふん、南田君が言うなら仕方ないわね」(舘林)


 高江洲が舘林さんに見えないようにベロをだし、悪顔をするのを俺は見逃さなかった。


「……続けていいですか?」


「ふふ、お願いね。安藤君」(結原)


 なんやかんや文句はありつつも、俺は引き続きBGM代わりに歌っていく。

 しかし、まぁ、なんかアレだな。みんなが雑談する中、一人だけBGMやるのってすごくアウェイだな。いたたまれないったらありゃしない。そうこうしている間に、一曲目の演奏を終える。


『パチパチパチ!』


 笑顔で大きな拍手をしているのは、2列目から顔を出す小枝。それにつられ、クラスメイト達と、同乗している他のクラスの生徒達も申し訳程度の拍手をする。


「一曲目は浜田省吾の「もう一つの土曜日」という曲でした。つづいて……」


「はいはい! 安藤君、SMAPの「君色思い」はリクエストできますか?」(小枝)


「は?」


「小枝、SMAPとか古いだろ。ここはひとつ、スピッツの「ロビンソン」だ。ね~♪ 菜乃ちゃん♪」(三科)


「う~ん、私は光GENJIの「勇気100%」がいいですね。みんなで歌えそうですし」(結原)


「先生方はもっと古いですわ。ここは生徒会長としてBUMP OF CHICKENの「天体観測」を希望します」(舘林)


「観測じゃなくて遠足なのに?」(高江洲)


「う、うるさいわね!」(舘林)


「はい! アニソン枠なら「シュガーソングとビターステップ」をお願いしたいです!」(奥原)


「「DangDang気になる」とかは?」(川岡)


「アニソンじゃないけど、俺はミスチルの「Tomorrow never Knows」がいいな」(南田)


「うさ美ちゃんは何かある? どうせならリクエストしときなって」(奥原)


「酒井法子の「あおいうさぎ」がいいピョン」(うさ美)


「うさ美ちゃん……別にキャラに寄せなくてもいいんだよ」(奥原)


「おいおいおい! さっきからみんな、古いんだって」(高江洲)


「そういう高江洲はどうなのさ?」(南田)


「アンドレ! 庄野真代の「モンテカルロで乾杯」でいけ」(高江洲)


「「「それも古い!!!」」」


 う~む……盛り上がってるところ悪いが、一曲も知らん。そして、弾けん。

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