第28話 遠足にいきたい

 -翌日-


「おはよ~……って、どうしたのアンドレ君!? その目の下のクマ!」


 登校するなり、いの一番に声をかけた奥原朋美が驚愕きょうがくしている。


「よぉ、奥原。お前が貸してくれたこの本、返すぞ」


「も、もう全部読んだの!?」


「まぁな」


「けっこうボリュームあったと思うけど……ど、どう? 面白かった?」


「息抜きにしては上出来だったというところか」


「そうなんだ、良かった~。酷評されないかヒヤヒヤしたよ」


 悔しいがラノベというジャンルは確かに面白かった。俺は奥原へ本を返却し、自席へ向かう。


(うっ!!)


 腰を下ろすと、途端に貫徹かんてつの疲労感も一気にのしかかってきた。


「ねぇねぇ、そりよりもどこが一番面白かった?」


 そんな俺に対し、奥原はこの機を逃すまいとあれこれ質問を投げかけてくる。


「ヒロインの奪還……あたりか」


「わかりみ! 私もヒロインを助けに行くときの主人公のセリフ! あそこにはしびれたなぁ」


「そ、そうか」


「それよりもね、ボスの秘書の方! あのお方どう思う?」


「あのお方? ああ……実際、今回の事件を首謀していたやつか」


 奥原が指している人物は今回の事件を手引きした敵。小説は続編を匂わせる為、未完ではあるのだが……敵の黒幕は正体不明で、その秘書の男が今回主人公の最大の敵として登場したのだ。


「あのお方がとっにかくカッコいいの! そう思わなかった?」


「う~む……敵に感情移入してないからな。よくわからん」


「え~、勿体ない! あのお方が出るだけでとにかく『とうとみ』なのに」


「……」


 奥原の異常なテンションについていけない俺であった。


「ともが朝からハイテンションだな。あんまりアンドレを困らせるなよ~」


「だって、高江洲くん~」


 茶髪の高江洲が茶化してくる。さらに、クラスメイト達が俺と奥原の会話が珍しいと見入っていた様子。みんなに笑われながらも、奥原は自分の推しキャラについてしばらく熱弁を振るっていたのであった。


♢♢♢


「さて、来週はいよいよお前らお楽しみの『アレ』がやってくるなー!」


 場面は変わり、何の変哲もない一日を終えたHRホームルームでのこと。担任の三科が含み笑いでどうにも気になる言葉を発した。なんのこっちゃわからない俺をよそに、クラスメイト共はワイワイガヤガヤと盛り上がりを見せている。


「小枝、来週何かあるのか?」


 俺は隣の小枝にこっそり事情をうかがう。


「あ、はい。来週の金曜日には遠足があるのです」


「え、遠足?」


 高校生にもなって学外学習を『遠足』と呼ぶことに驚かされる。せめてそこは『フィールドワーク』という呼称にして欲しいものだ。


「はい! 先生!」


 そんな事を考えている間に、小枝が大きく手を上げた。


「どうした小枝?」


「みんなのお昼のお弁当はどうしますか?」


「焦るな。それは今からゆっくり決めていくぞ」


「はい! 先生!」


「今度は何だ?」


「バス内でのレクリエーションはどうしますか?」


「それも今から決めていくぞー!」


「はい! 先生!」


「お前、ちょっと黙っとけーや!!」

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